→INDEX ■■■ 今昔物語集の由来 [2020.6.20] ■■■ [356] 本朝経典霊験譚の本巻[巻十四] 法華経霊験集を自任するつもりなど無いのは明らかであるから、そのような収載書から厳選し、整理された簡素な形にまとめればよさそうに思ってしまう箇所である。 それこそ、前の部分は止めて統合し、巻十四に全てを圧縮すればよさそうなもの。 その方がインパクトはかえって強くなるのではなかろうか。 もちろん、震旦のような経典の並びにして、後半にズラーと法華経という体裁にすることになる。これならスマートだし、法華経重視の本朝仏教文化も十分伝えることができると思われるのだが。 しかし、よくよく考えると、読者にこのダラダラ感を与えることにこそ意義があるということかも。何故に本朝で法華経がかくも重視されているかを実感させるためには、そうするしかないと判断したということ。 そういう観点で読み返すと、巻十四法華経霊験こそが、巻十二後半部にあるべき、"正式な"諸経典霊験グループに当たることが見えてくる。 ただし、震旦的な経典の順番とは違い、イの一番に沢山の法華経譚を配置する訳だが。 実は、"正式な"諸経典霊験グループと呼んだ意味はそれだけではない。 巻十四収載譚は、どうも講聴聞で果を得るという受動的行為を収載せず、自ら読誦・写経の功徳を行う積極的姿勢の話だけにしたようで、両者を峻別すべきと示唆していると読めないでもないからだ。 マ、ここらは、枝葉末節な話。正直なところ、どうでもよい。背景的な効果を狙ったというだけのこと。 巻十四での、ハイライトは、ほとんど目立たない#11譚だからだ。 経典霊験話を取り上げるなら、経典解釈書などどうでもよさそうだが、この譚に限って突如にそのよう書籍の題名がでてくる。読み手の感覚にもよるが、いかにも唐突。 と言うことは、巻十一から法華経霊験の話をずっと続けて来て、そんな効果を狙って、この箇所に入れ込むことにしたのでは。 その本とは、現存する、本朝最古の書、聖徳太子:「法華義疏」(@「三経[法華・維摩・勝鬘]義疏」615年[⇒法雲[467-529年]:「法華経義記」])。 一般に、「今昔物語集」の特徴は教団内の思想的対立について取り上げないようにしているので、この手の著作を云々するのは極めて例外的。つまり、この書籍だけは触れておかねばと判断したことを意味しよう。 その気分はよくわかる。 すでに述べたように震旦の状況とは余りに違うからだ。 要するに、その違いを生んだ端緒は聖徳太子の606年の講説にあり、というのが「今昔物語集」編纂者の見方ということになる。実際、現代の評価でも、この法華経解釈には独自性がかなり強く、震旦の解釈とは大きく違うとされている。("実に就いて論ずる"との実践的立場での解釈と誰もが仏性を持てるとの「一大乗」独自思想が特徴。) 簡単に言えば、聖徳太子が法華経を最重要経典と見なしたということ。 と言うことで、巻十四の構造はこうなっている。・・・ 巻十四 本朝 付仏法 #1〜28 法華経 #1〜11 解脱救済 #1〜4 畜生転生 #5〜10 書写 #5〜6 畜生 #7〜8 立山地獄 #9 事故 #10 悪行 #11 「法華義疏」 #12〜25 前世を知る契機となった読誦 #26〜28 写書読誦による現報 #29〜45 諸経典 修法 陀羅尼 #29〜39 諸経典 #29〜32 善悪現報タイプの霊験 #29【金光明経】(+法華経) #30【大般若経】 #31〜32【般若心経】 #33〜39 他 #33〜34【金剛般若経】 #35【仁王経】 #36〜38【方広経】 #39【涅槃経】 #40〜45 修法 陀羅尼 #40【_】 #41【請雨経】 #42【仏頂尊勝陀羅尼】遁鬼難 #43【大悲心陀羅尼】遁蛇難 #44【胎蔵界供養法・金剛界供養法】 #45【敵国調伏法】 巻十四 本朝 付仏法(法華経の霊験譚) 《1-8転生I》 [_1] 比叡山 為救無空律師枇杷大臣写法花語📖枇杷殿 ⇒験記上7出羽国竜化寺の妙達和尚 ⇒往生[_7]無空律師 [_2] 信濃守為蛇鼠写法花救苦語 ⇒験記下125信濃国の蛇と鼠 [_3] 【紀伊】《道成寺》 紀伊国道成寺僧写法花救蛇語📖道成寺📖熊野の地 ⇒験記下129紀伊国牟呂郡の悪しき女 [_4] 女依法花力転蛇身生天語📖藤原広嗣の乱 出典不詳 [_5] 武徳殿 為救野干死写法花人語 ⇒験記下127朱雀大路の野干 [_6] 【越後】《乙寺》 越後国乙寺僧為猿写法花語📖猿譚 ⇒験記下126越後国の乙寺の猿 [_7] 【越中 立山】 修行僧至越中立山会小女語📖立山地獄 ⇒験記下124越中国立山の女人 [_8] 【越中 立山】 越中国書生妻死堕立山地獄語📖立山地獄 出典不詳 [_9] 【美作】 美作国鉄掘入穴法花力出穴語📖落盤事故生還 ⇒霊異記下13将写法華経建願人断日暗穴頼願力得全命 ⇒験記下108美作国の鉄を採る男 [10] 【陸奥】 陸奥国壬生良門棄悪趣善写法花語📖壬生良門 ⇒験記下112奥州の壬生良門 [11] 《天王寺》《法隆寺》 天王寺為八講於法隆寺写太子疏語 出典不詳 《12-25転生II》 [12] 《醍醐》 醍醐僧恵増持法花知前生語📖前生蟋蟀の僧 ⇒験記上31源尊法師 [13] 入道覚念持法花知前生語📖前生蟋蟀の僧 ⇒験記中78覚念法師 [14] 僧行範持法花経知前生報語📖前生蟋蟀の僧 ⇒験記中77行範法師 [15] 【越中】 越中国僧海蓮持法花経知前生報語📖前生蟋蟀の僧 ⇒験記下89越中国の海蓮法師 [16] 《元興寺》 元興寺僧蓮尊持法花経知前生報語📖前生蟋蟀の僧📖普賢菩薩 ⇒験記中58蓮尊法師 [17] 《金峰山》 金峰山僧転乗持法花知前生語📖前生蟋蟀の僧 ⇒験記下93金峰山の転乗法師 [18] 僧明蓮持法花知前生語📖前生蟋蟀の僧📖熊野の地📖持経者 ⇒験記中80明蓮法師 [19] 【備前】 備前国盲人知前世持法花語📖前生蚯蚓の僧 ⇒験記上27備前国の盲目法師 [20] 僧安勝持法花知前生報語📖前生蚯蚓の僧 ⇒験記上26黒色の沙門安勝 [21] 比叡山《横川》 比叡山横川永慶聖人誦法花知前生語📖前生蚯蚓の僧 ⇒験記中53横川の氷慶法師 [22] 比叡山《西塔》 比叡山西塔僧春命読誦法花知前生語📖前生蚯蚓の僧📖悪人往生 ⇒験記上25比叡山西塔の春命 [23] 【近江】 近江国僧頼真誦法花知前生語📖前生蚯蚓の僧📖持経者 ⇒験記上24頼真法師 [24] 比叡山《東塔》 比叡山東塔僧朝禅誦法花経知前生語📖前生蚯蚓の僧 ⇒験記上36比叡山の朝禅法師 [25] 【山城】《神奈比寺》 山城国神奈比寺聖人誦法花知前生報語📖前生蚯蚓の僧 ⇒験記上30山城国加美奈井寺の住僧 [26] 【河内 丹比】《野中寺》 丹治比経師不信写法花死語 ⇒霊異記下26強非理以徴債取多倍而現得悪死 [27] 【阿波】《苑山寺》 阿波国人謗写法花人得現報語 ⇒霊異記下20奉写法華経女人誹過失以現口唱斜報 [28] 【山城】《高麗寺》 山城国高麗寺栄常謗法花得現報語📖碁聖 ⇒霊異記上19読法花経品之人而現口蝸斜得悪報(+中18読法華経僧而現喎斜得悪死) 《29-45緒経霊験》 [29] 【金光明経】 橘敏行発願従冥途返語📖金光明経 出典不詳 [30] 【大般若経】 大伴忍勝発願従冥途返語📖般若心経 ⇒霊異記下23用寺物復将写大般若建願得善悪報 [31] 【般若心経】 利苅女誦心経従冥途返語📖般若心経 ⇒霊異記中19憶持心経女現至閻闕示奇 [32] 【般若心経】【難波】《百濟寺》 (心経持経) 百済僧義覚誦心経施霊験語📖般若心経 ⇒霊異記上14僧憶持心経得現報示奇事 [33] 【金剛般若経】 《薬師寺》 (金剛般若経持経) 《山崎相応寺》 (金剛般若経誦経) 《極楽寺》 (仁王般若経誦経) 比叡山《横川》(源信) (涅槃般若経誦経) 僧長義依金剛般若験開盲語📖金剛般若経 ⇒霊異記下21沙門一目眼盲使読金剛般若経得明眼 [34] 【金剛般若経】 壱演僧正誦金剛般若施霊験語📖金剛般若経 出典不詳 [35] 【仁王経】《極楽寺》 極楽寺僧誦仁王経施霊験語📖仁王般若経 出典不詳 [36] 【方広経】 伴義通令誦方広経開聾語 ⇒霊異記上8聾者帰敬方広経典得現報開面耳 [37] 【方広経】 令誦方広経知父成牛語📖償債で牛転生 ⇒霊異記上10倫用子物作牛役之示異表 [38] 【方広経】 誦方広経僧入海不死返来語📖「三宝絵詞」の高利貸僧 ⇒霊異記下4沙門誦持方広大乘沈海不溺 [39] 【涅槃経】比叡山《横川》 源信内供於横川供養涅槃経語📖源信物語 [2:涅槃経写経] 出典不詳 [40] 【_】 弘法大師挑修円僧都語📖修円僧都 v.s. 弘法大師 出典不詳 [41] 【請雨経】 弘法大師修請雨経法降雨語📖請雨経法 出典不詳 [42] 【仏頂尊勝陀羅尼】 依尊勝陀羅尼験力遁鬼難語📖仏陀波利三蔵 出典不詳 [43] 【大悲心陀羅尼】 依千手陀羅尼験力遁蛇難語 出典不詳 [44] 【胎蔵界供養法・金剛界供養法】比叡山 【播磨明石】 比叡山僧宿播磨明石値貴僧語 出典不詳 [45] 【敵国調伏法】 依調伏法験利仁将軍死語📖新羅での敵国調伏法 出典不詳 [KEY:験記…「大日本国法華経験記」 往生…「日本往生極楽記」 霊異記…「日本国現報善悪霊異記」] (C) 2020 RandDManagement.com →HOME |