→INDEX ■■■ 「古事記」解釈 [2022.3.19] ■■■ [442][安万侶文法]語気詞の扱い そのため、一意的とは程遠いにもかかわらず、なんだかよくわからぬまま暗記させられる漢字が含まれている。素人からすれば、"語気"とは、いかにも曖昧な定義という感じがするが、だからといって納得感が薄い訳でもない。言葉とはそんなモノだろうということで、特段関心を払わないまま通り過ぎてしまう。 しかし、「古事記」を眺めていると、太安万侶は注意深く使用していそうなので、検討しておく価値がありそう。 語気詞とは、"気分"を表現するための言葉だとすれば、漢語が非母国語だとそう簡単に理解できそうにない。漢語は、筆記された文章を土台とする、完璧な官僚統制言語だからだ。構文言語でなく文字筆記化を避け続けてきた倭人の"気分"とは相当な開きがあってしかるべし、と思う。しかし、そこらの検討は荷が重すぎる。 (漢字文章に合わせた話し言葉の社会が出来上がれば、その人民は「漢」民族と見なされる仕組み。当然ながら、「漢」民族であるから、天子独裁-官僚統治体制を容認し、宗族信仰への帰依が"社会的"に要求されることになる。それが成功裏に進めば、その地は自動的に中華帝国"内地"と見なされることになる。 ・・・日本國も、漢文を、長らく公的文章にしていた。現代に入っても、訓読みは文部省:「送假名法」&「訓讀法」の統制下であり、中華帝国化の流れの第一歩を歩んでいたことになろう。駐留軍統治以前のことだが、この訓読みが無効とされたことはない。) とりあえず倭語の場合で考えることにしよう。この場合、語気詞があるとすれば、どのような用法になるかはだいたい想像がつく。 もともと倭語とは話語であるから、会話で使われることになる。そうなれば、「本当かいな?」という情緒を伝えたい時に用いる"辞"が一番似つかわしい。 言葉自体は明確であるものの、その気分は文字からは読み取ることはできず、解釈はいかようにもなる。・・・ 滅多にないことなので感嘆しているのかもしれぬし、疑問を覚えて確認したい時もあろう。あるいは、なかばお笑いで、対応していたりもしよう。 官僚制度からすれば、こんな場合、さらに事細かに分類し、それぞれ別文字にして表現したいところだろう。しかし、それは無理筋。このように曖昧だからこそ面白いのであり、だからこそ、それぞれの気分が引き立つからだ。 つまり、どうしても曖昧な形での表記が容認されることになる。それこそが、語気詞の本質ではあるまいか。 その代表としては、乎、哉、歟、耶があげられよう。 「古事記」では、圧倒的に"乎"の使用が多いが、他の3文字も見かける。 もちろん、この他に、「古事記」には使われていない文字もある。・・・ 了 的 欸 蛤[貝名としては登場] etc. 尚、口偏漢字は、繁体使用地域では、現代でも、語気詞的に使われているようだ。・・・嗎 呢 吧 啊 呀 哦 嘛 啦 喽 唄 哇 哈 噢 喔 嗯 囉 咧 唷 咦 喂 etc. ≪乎≫ [呉音]ヲ ゴ [漢音]コ [訓]か や を かな よ ああ [古事記推定音表記]を (小 緒 矣 遠 尾 呼 雄 男 麻 袁 越 怨 絃) -訓読用法- ❶文末に付けて疑問文化させる文末助詞 ("か?")@連体形 ("や?")@終止形 ❷〃 反語 ("(ん)や") ❸"介詞+<О>+<V>"という順番で構文を示す置字 ❹【定型句】 ① ② ③ ③ ○"請/願/etc.〜乎"での命令調 ○嘆息 e.g. "惜乎!" --- 故 爾 伊邪那岐命詔之: 愛我"那邇"妹命乎 謂:易子之一木乎 --- 今汝子 事代主神 如此白訖亦有可白:子乎 --- 爾 天宇受賣命謂:海鼠云此口乎 不答之口 而 --- 亦名謂木花之"佐久夜毘賣" 又 問:有汝之兄弟乎 --- 是以 海神 悉 召集海之大小魚 問曰:若有取此鉤魚乎 --- 問之:汝者誰也 答曰:僕者國神 名宇豆毘古 又 問:汝者知海道乎 --- 答曰:能知 又 問:從而仕奉乎 --- 到紀國男之水門 而 詔:負賤奴之手乎死 --- 獻之時 天神御子即寤起 詔:長寢乎 --- 問二人曰:今天神御子幸行 汝等仕奉乎 --- 問其女曰:汝者自妊 無夫何由妊身乎 --- 爾 天皇詔之:吾殆見欺乎 --- 令"宇氣比"白:因拜此大神 誠有驗者 住是鷺巣池之樹鷺乎 --- 其御子詔言:是於河下・・・ 葦原色許男大神以伊都玖之祝大廷乎 --- 爾 天皇問賜小碓命:何汝兄久不參出 若有未誨乎 --- 即 白其姨倭比賣命者:天皇 既所以思吾死乎 --- 即 問其執楫者曰:傳聞 茲山有忿怒之大猪 吾欲取其猪 若獲其猪乎 --- 故 諺曰:海人乎 --- 故 其兄謂其弟:吾雖乞伊豆志袁登賣 不得婚 汝得此孃子乎 --- 御祖答曰:我御世之事 能"許曾"神習 又 宇都志岐青人草習乎 --- 乃 語云:天皇者 此日婚八田若郎女 而 晝夜戲遊 若大后 不聞看此事乎 --- 詔之:其王等 因 无禮而退賜 是者無異事耳 夫之奴乎 --- 爾 天皇令詔:吾疑汝命若與墨江中王 同心乎 --- 讒大日下王曰:大日下王者不受勅命 曰:己妹乎 --- 曰:汝有所思乎 --- 爾 天皇 不知其少王 遊殿下以詔:吾恆有所思 何者 汝之子目弱王 成人之時 知吾殺其父王者 還爲有邪心乎 --- 言一爲天皇:一爲兄弟 何無恃心 聞殺其兄 不驚 而 怠乎 --- 我所相言之孃子者:若有此家乎 --- 爾 天皇詔者:奴乎 --- 天皇詔之:欲報父王之仇 必悉破壞其陵 何少掘乎 ≪哉≫ [呉音]サイ セ [漢音]サイ [訓]かな(か+な) や か [名乗訓]えい き すけ とし ちか はじめ -用法- ❶疑問:〜(であろう)か? ❷〃 反語 ❸感動・詠嘆:〜だなあ。/〜であるなあ。e.g. 快哉 善哉 --- 爾 伊邪那美命答白:悔哉 --- 爾 速須佐之男命詔:其老夫是 汝之女者 奉於吾哉 --- 爾 詔:佐久夜毘賣一宿哉 妊 是非我子 --- 問婢曰:若人有門外哉 --- 問其聟夫曰:今旦聞我女之語 云三年雖坐 恆無歎 今夜爲大歎 若有由哉 ≪歟[≒與]≫ [呉音]ヨ [漢音]ヨ [訓]か や -用法- 緩い詠嘆(なげく・ひがむ)、軽い疑問 --- 問其伊呂妹曰:孰愛夫與兄歟 --- 問妾曰:孰愛夫與兄 是不勝面問 故 妾答曰:愛兄歟 --- 爾 建内宿禰 白:恐 我大神 坐其神腹之御子 何子歟 --- 曰:己妹乎 爲等族之下席 而 取横刀之手上 而 怒歟 ≪耶/[代替文字]邪≫ …"邪"は「古事記」では使用されていない。仏典でも使用されないらしい。 [呉音]ヤ [漢音]ヤ [_音]ジャ [訓]か -用法- 疑問 --- 於是 大國主神愁 而 告:吾獨何能得作此國 孰神與吾能相作此國耶 --- 還到 乃 悉 追聚鰭廣物鰭狹物以 問言:汝者天神御子仕奉耶之時 ------------------------- 📖特別感嘆詞"然者" 📖接続詞不要の社会 📖ゴチャゴチャ表記の理由 📖構造言語文法は不適 📖句間字と文末字の重要性 📖膠着語の本質 📖日本語文法の祖は太安万侶 🗣📖訓読みへの執着が示唆する日本語ルーツ 📖日本語文法書としての意義 📖倭語最初の文法が見てとれる 📖てにをは文法は太安万侶理論か 📖脱学校文法の勧め 📖「象の鼻は長い」(三上章) 📖動詞の活用パターンは2種類で十分 📖日本語に時制は無いのでは 📖日本語文法には西田哲学が不可欠かも 📖丸暗記用文法の役割は終わったのでは 📖ハワイ語はおそらく親類 📖素人実感に基づく言語の3分類 📖日本語文法入門書を初めて読んだ 📖書評: 「日本語と時間」 📖日本語への語順文法適用は無理を生じる (C) 2022 RandDManagement.com →HOME |