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■■■ 「古事記」解釈 [2023.1.31] ■■■
[歌の意味5]叙事一体の歌
👂詩歌は題材によって分類すればいくらでも細分化されてしまうが、逆に、大分類はむずかしかろう。「萬葉集」の歌は3分類されて編集されているが、基本は恋愛歌(相聞)とその他の二分。死別に係る歌を独立させているが(挽歌+雜歌)、非恋愛歌がそうそう簡単に仕訳できる訳がない。
と云うのは、各歌が独立した作品とされる、抒情歌集だからだ。

ここらは、極めて重要な点で、口誦叙事詩の文字表記化作品の「古事記」とは違う。
つまり、以下の様に3つの発展段階があり、両者は全く異なっていると見る訳だ。そのメルクマールは、ベースが口誦作品か文字作品か、にあると考えており、後者は前者の発展形なので韻文であるだけで、口誦のように聴き手の頭に残る伝承作品にする必要が無いので韻は必ずしも必須ではないと言えよう。
<呪禱> ゆったりとした抑揚口誦…閉鎖空間での存在観念と特殊語彙
<叙事> 拍と旋律を感じさせる朗誦…民族意識(イデオロギー)とジャーゴン
    神語り(神権関連儀式)
    英雄/偉業譚(王権関連儀式)
    政治的事件
    世俗話(風俗・道化・労働作業)
<抒情> 黙読 or 楽曲的歌唱…深い自己精神(心情/心持)と修辞

一般に叙事詩は、英雄の大活躍がメインで、宇宙創成・人類起源の歌謡や滑稽譚が別途存在する体裁が多いように見えるが、「古事記」の構成は全く異なっており、メインは歌を伴う恋愛物語からなる。
民俗意識が籠められた口誦伝承作品であるから、一種の歴史歌謡的な側面があるのは当然で、それが表に出る民族と、天竺のように輪廻観から捨象される民族では違いがあるものの、英雄が登場する壮大な物語性から成ると言う通念に反し、「古事記」にはその様な雰囲気が全く感じられない。英雄が民族精神の象徴となり、それが共同体意識を培っていく様な社会ではないことを意味しているとしか思えない。

もちろん、英雄譚ありとみなしたいとなれば、そう解釈できないこともないが、メインラインでない方にだけハイライトが当たることになりかねない。これでは、叙事詩としての意味が損なわれてしまう。・・・
○最有力候補は倭建命ということになろうが、天皇ではない。
○苦難をものともせずという点では、大国主命がピッタリ当てはまるものの、歌がそぐわない。高天原の敵対勢力でもある。
○速須佐之男命も英雄扱いができるが、わずか1首。しかも高天原から追放された神である。

天皇ということなら、東征関連の歌があるので、初代とするしかなかろうが、その歌がいかにも軍事勢力の伝承歌であり、カリスマ性が見られない。日向から瀬戸海までは存在感が無く、困難を乗り越えた英雄的描き方がなされているとは言い難い。
天皇を英雄にする必要が無い社会だったことになろう。

しかしながら、「古事記」が軍国主義国家の聖典とされれば、こうした見方は一蹴される。皇軍兵士あるいは産業兵士として勇猛果敢に戦う信念を確立するためのモデルとして、速須佐之男命・初代天皇・倭建命は日本国の英雄となる。当然ながら、歌としては、"撃ちてし止まぬ"が頂点とされる。一方、倭建命の英雄像の肝は、天皇に全身全霊を捧げる点となるから、"倭は国のまほろば"が崇高な愛国心歌とされよう。もちろん、巨大な怪物を退治した速須佐之男命は、最終的に天照大御神に草薙太刀を奉じた点が評価されることになろう。
この読み方は、西欧的な叙事詩への当て嵌めに映るが、その本質は叙事詩の抒情詩への転換と云うべきだろう。
天皇は苦難をものともせず軍を歌で鼓舞したとなろうし、倭建命は遠征の地での母国愛一筋となり、速須佐之男命は弱き者を救う心根を読み取る訳である。

・・・「古事記」の歌を抒情歌とすれば、軍国主義国家の聖典とされていなくても、このように読まれてもなんらおかしくはなかろう。叙事詩と抒情詩の違いを概念的に把握できないとこうならざるを得まい。(反軍国主義と称しながら、アニミズムを心優しいと見なすようなもの。それは動植物と同じ扱いでヒトにも対処することを意味し、現代からすれば恐ろしい行為が平然となされる世界でしかない。・・・倭国の信仰は雑炊性が特徴だがアニミズムではない。)

叙事詩として読めば、断トツの英雄的天皇が抜け落ちていることがわかる。但し、恋歌の雄としての存在にしか映らないが。それが倭国流ということになろう。
倭の英雄としてのメルクマールは、少年として、類まれなる果敢な行動力と、成年後の、周囲に気遣うことのない盛んな恋路にある。そこから抒情的感興が生まれると考えるべきではないし、儒教的倫理観の眼鏡を掛けたら台無し。
 (㊤大穴牟遅神)⇒㊥小碓命⇒㊦大長谷若建命@童男

---INDEX---(ご注意)歌番号はテキストに従っておりません。
   《上巻》@出雲・八尋和邇…7+2首(#1〜9) 📖
<@出雲>…7首
[__1]【速須佐之男命】作御歌八雲立つ出雲八重垣📖
   《中巻初代天皇段》…13首(#10〜22) 📖
<東遷敗色脱却となる戦勝後の酒宴>…1首
[_10]①天皇⇒【自軍兵】@東遷宇陀の高城に鷸羂張る📖
<東遷続々勝利を誇る久米族>…5首
[_11]①天皇⇒【久米人】みつみつし久米の子等が頭椎い📖
[_12]①天皇⇒【久米人】みつみつし久米の子等が粟生には📖
[_13]①天皇⇒【久米人】みつみつし久米の子等が垣下に📖
[_14]①天皇⇒【久米人】神風の伊勢の海の📖
[_15]①天皇⇒【久米人】盾並めて伊那佐の山の📖
《中巻倭建命関連》…15首(#24〜38) 📖
<出雲健騙し討ち成功で得意三昧>…1首
[_24]【倭建命】やつめさす出雲建が📖
<妻の身を捧げる愛>…3首
[_25]【(后)弟橘比賣命】さねさし相武の小沼に📖
[_26]【倭建命】新治筑波を過ぎて📖
[_27]【御火燒之老人】日々並べて夜には九夜📖
<東征完了後帰還し かねての約束通り初夜>…2首
[_28]【倭建命】久方の天香久山📖
[_29]【美夜受比賣】高光る日の皇子八隅知し📖
[番外]【倭建命】三歎詔吾妻はや📖
<辞世的に、最後の気力で心持発露>…5首
[_30]【倭建命】尾張に直に向かへる📖
[_31]【倭建命】倭は国のまほろば📖
[_32]【倭建命】命の全けむ人は📖
[_33]【倭建命】はしけやし我家の方よ📖
[_34]【倭建命】少女の床の辺に📖
<葬儀で遺族は深い悲しみに陥る>…4首[大御葬儀歌]
[_35]【倭建命后御子等】<大御葬儀歌>水漬きの田の稲柄に📖
[_36]【倭建命后御子等】<大御葬儀歌>浅小竹原腰難む📖
[_37]【倭建命后御子等】<大御葬儀歌>海処行けば腰難む📖
[_38]【倭建命后御子等】<大御葬儀歌>浜つ千鳥浜由は行かず📖

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