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■■■ 「古事記」解釈 [2021.1.24] ■■■
[23] 上中下巻の系譜上の切れ目
「古事記」とは、倭風叙事詩的に記載しながら、歴史観を盛り込もうと言う意図で編纂された書として眺めていると、全体構成の見事さに気付かされる。

それは、おそらく、この書の成立に由来している。

パトロンはあくまでも天皇。朝廷が官僚層の知恵を振り絞って、一般公開する手のものとは違う。タブー破りは御法度だが、各勢力の意向を鑑み、智慧を絞って編纂する必要はない。読者も限定的であり、インターナショナルなセンスを持つ知的な人々だけしか触れることができなかったと思われる。
それを与件として、一切雑音が入らずに、太安万侶と稗田阿礼だけで書き上げることができたのだから、かなり自由に記述できた筈である。

但し、設定されている最重要課題とは、系譜である。叙事詩としても、それこそが肝である訳で。

そんなことを考えていると、上中下巻の切れ目は極く自然な体裁に仕上がっていることがわかる。
しかし、上巻は、一部分、カットしたか、情報が得られず仕舞いで取り上げげなかった箇所があるようにも思えてくる。
その辺りに触れておこう。
ということで、上巻だが、神話の時代のお話ということになるが、すでい述べたように、様々な見方がちりばめられている。
これを、叙事詩的系譜記載の観点で読めば、明らかに前段と後段に分かれている。前段は、天地の始まり⇒神の結婚⇒黄泉国ということになる。

□┬┐天之御中主~
□□↓宇摩志阿斯訶備比古遲~
└┴─□──□天之常立~ ↑[別天神五柱]
┌──────┘↓[神世七代7]
□─□┐
┌─┘
_○△─○△─○△─○△─[○伊邪那岐命+△伊邪那美命]┐

┌──・・・
  [国生み:大八嶋國+六嶋]
  [神生み:三十五神]
  [斬殺迦具土~:刀血八神+遺体場所八神+刀]
  [@黄泉比良坂:號意富加牟豆美命(桃), 道反大~/塞坐黄泉戸大~(岩)]
 ---伊邪那岐命"滌御身"---
  [脱著身之物十二神・穢繁汚垢二神+直禍三神・綿津見三神+墨江之三前大神]
├┬┐ [三貴神]
△□〇天照大御神 月読命 建速須佐之男命
┼┼┼ 高天原  夜之食國  海原

ここで、前段から後段に入るとの見方が重要。
系譜論的に、三貴神のストーリーを語らねばならないのである。
そう考えると、構成上おかしいので、そのような構成ではないことにされてしまう。と言うのは、中空論の例としても取り上げられるように、月読命の話が欠けているからだ。

それに、「日本書紀」を参考にするとか、混在させて読む方法が一般的なようなので、この点に関心を払わないせいもありそう。「日本書紀」は"建速須佐之男命と大国主神の様々な神話"を出来る限り無視しており、"国譲り"の事績さえあれば十分という姿勢が顕著だから、それに比べれば矢鱈にここらの神話収載に熱心という点ばかりに目が行ってしまうことになる。
いかにも神話然としていることもあり、ココが「古事記」の大衆的人気を呼んだ理由でもあるし、その見方が外れている訳ではないが、本来的には月読命の系譜も書かねば叙事詩としては不完全という点を見逃しやすい。

その信仰は、日本列島では、主流の海人の世界では注目されないが、山人の世界や独自文化志向の地域では違っていた可能性があろう。つまり、大国主以前の本州土着勢力の叙事詩がかつてはソコに存在していたことを示唆していることになる。(国土の隅々まで知り尽くしている多邇具久[=ヒキガエル]が登場するが、その中国名は蟾蜍で、月の象徴["姮娥奔月"]として知られる。かつて、月神が、日本列島の谷地社会の支配者であったことを意味しているのかも。尚、遮光器土偶は月⇒蛙⇒人の交流を示すとの説や、縄文土器の螺旋文様を月軌道と見る向きもあるようだが、それらが古代月/蛙信仰の残渣との論拠は薄弱と言わざるをえまい。尤も、信州の地には、建御名方神に征服されて変貌を遂げているとはいえ、蛙神事が残っている。中華帝国圏であるが、三國史記卷十三高句麗本紀によれば、金蛙が無子の始祖の後を継いで東扶余王となるから、蛙信仰は東アジア圏全体に広がっていた時代があったようだ。従って、海人系でも、黒潮色濃い南島人や隼人等に、古代の月神譚が伝承していておかしくないと思うが、耳にしたことがない。)

一方、三貴神の、建速須佐之男命になると、直系系譜はしっかりと記載されている。国譲り後の大国主の以後の系譜が天皇家にとって不可欠とも思えないが、出雲系の国王承継のルールを示したかったということか。
大穴牟遅神は、八十神と兄弟で末子。血筋で継承権を得られる訳ではないし、威力を見せ、実力で獲得するのが掟だったのだろう。数多くの王子の血みどろの王位獲得競争が行われたものの、分裂することもなく、王位継承ルールが遵守されていたことを示していそう。
と言うか、最有力地の姫を娶ることで、姫の出身地と皇子に代表権が与えられるという仕組みなのだろう。実態はわからぬが、緩い連合王国が形成されていたのだろう。

この場合、一般的には、"〜の娘"との婚姻となるが、女王制もあったようだ。・・・
○八千矛~/大国主命
└┬△[高志國之]沼河比賣
皇孫でも、初期には同様な例があり、日向での婚姻についても同様な制度下だった可能性もあろう。
[2代天皇]~沼河耳命@葛城高岡宮
└┬△[師木縣主之祖]河俣毘賣
[4代天皇]大倭日子友命@橿原軽之境岡宮
└┬△[師木縣主之祖]賦登麻和訶比賣命/飯日比売比賣

《十七世神の系譜》
建速須佐之男命
┌┘
├┐--△天照大御神
宗像三女神
├┬神大市比売
大年神, 宇迦之御魂神
└┬△櫛名田比売(足名椎の娘)
○八島士奴美神
┌┘
└┬△木花知流比売(大山津見神の娘)
○布波能母遅久奴須奴神
┌┘
└┬△日河比売(淤加美神の娘)
○深淵之水夜礼花神…深淵神社@土佐香南野市西野
┌┘
└┬△天之都度閇知泥神
○淤美豆奴神/八束水臣津努命…國村神社@出雲多伎久村
┌┘
└┬△布帝耳神(布怒豆怒神の娘)
○天之冬衣神…重蔵神社@輪島河井
┌┘
├┬△n.a.
○八十神
└┬△刺国若比売(刺国大神の娘)
大国主神(=大穴牟遅神)
┌┘
├┬須勢理毘売命, 多紀理毘売命, 神屋楯比売命, 八上比売, 沼河比売
○・・・
└┬△取神(八島牟遅能神の娘)
鳴海神
┌┘
└┬△日名照額田毘道男伊許知邇神
○国忍富神
┌┘
└┬△葦那陀迦神
○速甕之多気佐波夜遅奴美神…佐波々地祇神社@北茨城華川上小津田
┌┘
└┬△前玉比売(天之甕主神の娘)
甕主日子神
┌┘
└┬△比那良志毘売(淤加美神の娘)
○多比理岐志麻流美神…多比鹿神社@三重菰野田光
┌┘
└┬△活玉前玉比売神(比比羅木之其花麻豆美神の娘)
○美呂浪神
┌┘
└┬△青沼馬沼押比売(敷山主神の娘)…青渭神社@調布深大寺
○布忍富鳥鳴海神
┌┘
└┬△若尽女神
○天日腹大科度美神…日原神社@舞鶴女布日原
┌┘
└┬△遠津待根神(天之狭霧神の娘)
遠津山岬多良斯神…鳴海杻神社@犬山羽黒
…記載は15代迄。

実に整然とした系譜だ。この後、天照大御神系譜に入るのである。
ただ順番的には、建速須佐之男命の高天原での狼藉から始まる天の岩戸譚の後に、上記の系譜が記載されるので、あくまでも天照大御神譚の挿入話に映るため、何のために収録したのかわからなくなりがち。・・・三貴神の角逐で、最初が月読命、次が建速須佐之男命、最終的には天照大御神とヘゲモニーが移った話と、それに合わせて、それぞれの子孫が地上世界を統治した様を示す系譜が示されるというのが叙事詩としては整った構成になるが、そうはいかなかったので変則的になっているのだろう。

ともあれ、大国主神の国譲り⇒天孫降臨⇒日向⇒鵜葺草葺不合命譚で上巻完となる。中巻は初代天皇から始まるので、自然な感じがするものの、建速須佐之男命時代と大国主神時代の切り分けに揃えた印象を受ける。

皇位継承ルール的には、出来る限り末子とし、男系直系継承ということのようだ。皇子が多くても、継承は一人に限ることにしているようで、すっきりした系譜である。ただ、天皇の寿命が常識外れに長く、二期作/三期作によるカウントとしか考えるしかないが、世継ぎ皇子が成人前であると、非貴族の異母兄弟がII世/III世を名乗って、寿命としては合算ということもありそうな気はする。

実態はよくわからないものの、その継承ルールが抜本的変えられたのが、下巻の冒頭に登場する大雀命から。
皇子兄弟継承が原則となったようで、該当者が無くなると初めて次世代に移行し、そこでの兄弟継承の運びとなるようだ。そのため、継承をめぐる血みどろの戦いが繰り広げられたようである。皇子の血縁数が鼠算的に増えてしまい妥協の余地が失われていったということでもあろう。
お蔭で、下巻の系図はグチャグチャ。

天照大御神
├┬┬┬┐"誓約"五皇子
●〇〇〇〇
│⬁正勝吾勝勝速日天忍穗耳命
└┬△万幡豊秋津師比売
├┐
天火明命
┼┼●天邇岐志国邇岐志天津日高日子番能邇邇芸命
┼┼└┬△神阿多都比売/木花之佐久夜毘売
┼┼┼├┬┐
┼┼┼火照命
┼┼┼┼火須勢理命
┼┼┼┼┼●火遠理命/天津日高日子穗々手見命
┼┼┼┼┼└┬△豊玉姫
┼┼┼┼┼┼●天津日高日子波限建鵜葺草葺不合命
┼┼┼┼┼┼└┬△玉依毘売
┼┼┼┼┼┼┼├┬┬┐
┼┼┼┼┼┼┼五瀬命
┼┼┼┼┼┼┼┼稲氷命
┼┼┼┼┼┼┼┼┼御毛沼命
┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼●若御毛沼命/神倭伊波礼毘古中巻
┌─────────┘⬁①📖137歳崩御
├─┐
├┐├┬┐
○○○○●
┌───┘⬁②📖45歳崩御

│⬁③📖49歳崩御
├┬┐
○●○
┌┘⬁④📖45歳崩御
├┐
●○
│⬁⑤📖93歳崩御
├┐
○●
┌┘⬁⑥📖123歳崩御
├┐
○●
┌┘⬁⑦📖106歳崩御
├┬┬───┐
││├┬┬┐├┐
●△△○○△○○
│⬁⑧📖57歳崩御
├──┬┐
├┬┐││
○○●○○
┌─┘⬁⑨📖63歳崩御
├┬─┬┐
│├┐││
○●△○○
┌┘⬁⑩📖168歳崩御
├─┬───┐
├┐├┬┬┐├┬┬┬┬┐
○△○○△△●○△△△○
┌─────┘⬁⑪📖153歳崩御
├┬────┬─┬─┬┬──┐
│├┬┬┬┐├┐├┐│├┬┐├┐
○○●○△○○○○△○○○○○△
┌─┘⬁⑫📖137歳崩御
├────┬───┬─┬─────┬┬─┐
├┬┬┬┐├┬┬┐├┐├┬┬┬┬┐│├┐│
○○○○○●△○△○△△△○○△△○○○○
┌────┘⬁⑬📖95歳崩御
├┬┬┬┬┐
○●○○○○
┌┘⬁⑭📖52歳崩御
├─┐
├┐├┐
○○●○
┌─┘⬁⑮📖135歳崩御


大山守命 ●大雀命 宇遅能和紀郎子 [三皇子]
山海之政  食國之政  天津日繼
├────┬──┬───┬──┬┐
├┬┬┬┐├┬┐├┬┬┐├┬┐││
○△△△●○△△△△△△五世の子孫㉖↓
┌─────┘⬁⑯大雀命📖83歳崩御下巻

├───┬─┬┐
├┬┬┐├┐ n.a.
●○││○△
│⬁⑰📖64歳崩御
●│
│⬁⑱📖60歳崩御
│●
││⬁⑲📖78歳崩御
│└┐
└┐│
├┬┐││
○○│││
└────────────┐
└──││─────────┐│
┼┼┼││┼┼┼┼┼┼┼┼┼││
┌──┘│┼┼┼┼┼┼┼┼┼││
├─┐┼┼┼┼┼┼┼┼┼││
├┐├┐│┼┼┼┼┼┼┼┼┼││
△△○△│┼┼┼┼┼┼┼┼┼││
┌┬┬┬┼┬┬┬┐┼┼┼┼┼││
○△○●△○│△△┼┼┼┼┼││
┌──┘⬁⑳📖56歳崩御
┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼││
┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼││
├┐┼┼┼┼│⬁㉑📖124歳崩御
○○┼┼┼┼_x
┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼││
┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼│▲
┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼││⬁㉒📖不詳
┌─────────────┘_x
├┬┐
●│
│⬁㉓📖38歳崩御
_x_
┼┼
┼┼│⬁㉔📖不詳
┼┼
┼┼├─────┐
┼┼├┬┬┬┬┐│
┼┼△△△△●○△
┼┼┼┼┼┼│⬁㉕📖8年間統治
┼┼┼┼┼┼_x_
┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼↓⑮五世の子孫
┌───────────────┘
哀本杼命
│⬁㉖📖43歳崩御

├┬─┬─┬┬───┬───┐
│├┐├┐│├┬┬┐├┬┬┐├┬┐
│○△●│△△△△△△○○△△△○
┼┼│⬁㉗📖不詳
┼┼_x_
┼┼┼
┼┼┼│⬁㉘📖不詳
┼┼┼├──┐
┼┼┼├┬┐├┐
┼┼┼△△○○○
天国押波流岐広庭天皇
│⬁㉙📖不詳

├──┬┬──┬────〜─┐
├┬┐│├┬┐├┬┬┬┬〜┐├┬┬┬┐
○●○○△○○│○○│○〜○○○○○│
⬁㉚📖14年間統治
┌┘┼┼┼┼┼┼┼┼〜┼┼┼┼┼
┼┼┼┼┼┼┼┼┼〜┼┼┼┼┼
┼┼┼┼┼┼│⬁㉛📖3年間統治
┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼〜┼┼┼┼┼
┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼〜┼┼┼┼┼│⬁㉜📖4年間統治
┼┼┼┼┼┼┼┼┼│⬁㉝📖37年間統治

├───────┬─┬──┐┼┼┼
├┬┬┬┬┬┬┐├┐├┬┐├┬┬┐
○○○○○○○○△△○○○○○○○
┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼├┬┐〜
┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼●○○〜
┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼⬁㉞📖稗田阿礼登場の意義

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