→INDEX

■■■ 今昔物語集の由来 [2020.6.25] ■■■
[361] 出家様相の巻[巻十九]
19巻十九のハイライトはなんといっても「阿弥陀仏よや、おい、おい。」の【五位の太夫】の信仰だろう。この迫力には圧倒される。
【侍 忠太】も後世の硯破として語り継がれているし、【生侍】は白楽天の詩を想起させるなど、小説家としての才覚を彷彿させる仕上げぶり。
おそらく、「今昔物語集」編纂者は、俗人出家者にシンパシーを抱いていたものと思われる。
従って、それを引き立たせる役割そして、僧が、一寸した仏物盗用等で蛇に転生してしまった話をその後にもってきたのではなかろうか。
    巻十九
  #_1〜18 俗人出家
  #19〜22 転生 仏物盗用
  #23〜34 報恩
   #23〜28 孝養
(親・師)
   #29〜34 報恩
  #35〜44 三宝加護奇譚
(雑)

突然、"報恩"譚グループが来るが、震旦では、"仏法"巻の次ぎに"孝養"巻が別途設定されているのとは違い、本朝では"仏法"巻内である。
実に意味深。
震旦では、仏教はやがて儒教社会から駆逐されてしまうが、その理由は、血族第一主義の根幹たる宗廟祭祀と対立的存在だったから。そして、その祭祀の根底に流れる観念が孝養であり、それは儒教用語となる。しかし、本朝では、報恩としての孝養は仏教概念。
従って、この後に再び仏法譚が配置されることになる。その前の巻にそぐわないのでココに持って来たといわんばかり。なかなかに、不思議な構成なのである。
しかも、巻末譚のように、どこが仏法と関係するのか、はなはだ理解に苦しむ得体のしれぬ話があったりと、曲者そのものの巻なのだ。

芥川龍之介も、【六宮姫君の夫】を読んでそれに気付いたのであろう。えらく、屈折した書き方をしているからだ。
この話は、出家譚グループなので、男の出家話として読んでしまうし、ご教訓もその観点で書かれてはいるが、本来的にはこの話の主人公は女の方。
つまり、「今昔物語集」編纂者は、男の出家に注目している訳ではなく、この女をどう考えるか読者に問うているのである。

巻十九 本朝 付仏法(俗人出家談 奇異譚)
《1〜18俗人出家》
  [_1]【僧正遍昭】頭少将良峯宗貞出家📖僧正遍昭
   出典不詳 宝物
  [_2]【大江定基⇒寂照参河守大江定基出家家語📖圓通大師大江定基📖文殊化身
   出典不詳 宇治
  [_3]【慶滋保胤⇒寂心内記慶滋保胤出家📖慶滋保胤📖日本往生極楽記
   出典不詳 宇治
  [_4]【源賢の父 源満仲】摂津守源満仲出家📖多田院御家人祖源満仲
   出典不詳 宝物
  [_5]【六宮姫君の夫】六宮姫君夫出家📖「六宮姫君」元ネタ
   出典不詳
  [_6]【生侍】鴨雌見雄死所来出家📖俗人出家
   出典不詳
  [_7]丹後守保昌朝臣の郎等】丹後守保昌朝臣郎等射母成鹿出家📖俗人出家
   出典不詳
  [_8]【鷹仕者】西京鷹仕者見夢出家📖子攫い鷲📖俗人出家
   出典不詳
  [_9]【侍 忠太⇒性空上人】依小児破硯侍出家📖和歌集📖俗人出家
   出典不詳
  [10]【春宮蔵人 宗正@増賀上人春宮蔵人宗正出家📖俗人出家
   出典不詳
  [11]湯治の武人王藤】信濃国王藤観音出家📖俗人出家
   出典不詳 宇治
  [12]【高齢翁】於鎮西武蔵寺翁出家📖俗人出家
   出典不詳 宇治
  [13]越前守藤原孝忠に仕える貧乏侍】越前守藤原孝忠侍出家📖俗人出家
   出典不詳 宇治
  [14]【五位の太夫】讃岐国多度郡五位聞法即出家📖往生絵巻📖阿弥陀仏信仰📖悪人往生
   出典不詳 宝物
  [15]【大納言藤原公任】公任大納言出家籠居長谷語📖俗人出家 (欠文)
   出典不詳
  [16]【中納言源顕基】顕基中納言出家受学真言語📖俗人出家 (欠文)
   出典不詳
  [17]【大斎院選子】村上天皇御子大斎院出家📖大斎院
   出典不詳
  [18]【太皇大后宮(藤原)遵子】三条太皇大后宮出家📖源信物語 [5:横川の僧]
   出典不詳 宇治
《19〜22転生 仏物盗用》
  [19]東大寺僧於山値死僧語📖仏物盗用罰
   出典不詳
  [20]大安寺別当娘許蔵人通語📖仏物盗用罰
   出典不詳 宇治
  [21]以仏物餅造酒見蛇語📖酒壺の蛇
   出典不詳
  [22]寺別当許麦縄成蛇語📖傀儡師
   出典不詳
《23〜34報恩》
  [23]般若寺覚縁律師弟子僧信師遺言語📖鳴滝の寺
   出典不詳
  [24]代師入太山府君祭都状語📖報恩 "泣き不動"
   出典不詳
  [25]滝口藤原忠兼敬実父得任語📖報恩
   出典不詳
  [26]下野公助為父敦行被打不逃語📖近衞官舎人📖下毛野朝臣
   出典不詳
  [27]住河辺僧値洪水棄子助母語📖報恩
   出典不詳
  [28]僧蓮円修不軽行救死母苦語📖報恩
   出典不詳
  [29]龜報山陰中納言🐢📖亀譚📖継子殺戮
   出典不詳 宝物
  [30]龜報百済僧弘済🐢📖亀譚
  霊異記上7贖亀命放生得現報亀所助
  [31]髑髏報高麗僧道登📖架橋📖兄弟殺意
  霊異記上12人畜所履髑髏救收示霊表而現報
  [32]陸奥国神報平維叙語📖報恩
   出典不詳
  [33]東三条内神報僧📖紅梅情緒 "見るなの座敷"(後半欠文)
   出典不詳
  [34]比叡山天狗報助僧 (欠文)
   出典不詳
《35〜44三宝加護奇譚》
  [35] 薬師寺最勝会勅使捕盗人語📖三宝加護奇譚
   出典不詳
  [36] 薬師寺舞人玉手公近値盗人存命語📖三宝加護奇譚
   出典不詳
  [37] 比叡山大智房檜皮葺語📖三宝加護奇譚
   出典不詳
  [38] 比叡山大鐘為風被吹辷語📖三宝加護奇譚
   出典不詳
  [39] 美濃守侍五位遁急難存命語📖三宝加護奇譚
   出典不詳
  [40] 検非違使忠明於清水値敵存命語📖三宝加護奇譚
   出典不詳 宇治
  [41] 参清水女子落入前谷不死語📖三宝加護奇譚
   出典不詳
  [42] 滝蔵礼堂倒数人死存命人語📖三宝加護奇譚
   出典不詳
  [43] 貧女棄子取養女語📖三宝加護奇譚
   出典不詳
  [44] 達智門棄子狗密来令飲乳語📖狗人
   出典不詳
[KEY:霊異記…「日本国現報善悪霊異記」]
   宇治:「宇治拾遺物語」13世紀…(佚書「宇治大納言物語」の散逸譚拾遺集)197譚
   宝物:平康頼:「宝物集」1180年前後
 (C) 2020 RandDManagement.com    →HOME