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■■■ 「古事記」解釈 [2023.6.4] ■■■
[708] 一拍音語表記の難しさ
🅒🆅「古事記」仮名について見てきた。・・・
  📖 いゐ📖 📖 えゑ📖 おを📖
  かガ📖 きkiギg📖 くグ📖 けkeゲge📖 こkoゴgo📖
  さザしジすズせゼそsoゾ_📖
  たダちヂつヅてデとtoドdo📖
  📖 📖 ぬのno📖 📖
  はバへheベbeほボ📖 ひhiビbi📖 ふブ📖
  まみmiむ📖 めme📖 もmo📖
  やゆ𛀁よyo📖
  📖 りるれろro📖
  📖

どれも時間内でできそうないい加減なものでしかないが、素人にとっては、ある程度納得できる程度の網羅的な検討は不可欠である。自分の頭で考えるための最低限の努力とでも言おうか。
その結果、どうやら俯瞰的に見れるようになってきたというところ。
知りたいのは、太安万侶が、五十音的な視点をどのレベルで形成していたかという点。
・・・「古事記」以前、漢字を用いた備忘録的記録、縄結び目の情報伝達、あるいは交流時のIDとしての記号、等々は存在していたに違いないが、それは話語の全面的文字化とは次元が異なっており、太安万侶はその様な雑音を寄せ付けずに、どの様な論理と方法論を用いたのか気になるからだ。換言すれば、「古事記」で、初めて、倭人の話語の音素を同定し、その発声音に類似している感じを認定するに当たって、どの様な観念が基底となっているか考えてみたかったということ。

母国語と呼ばれる言語は、乳幼児の頃から徹底的に暗記させられて、忘れがたいように頭に叩き込まれる。そのため、話語の音としての認識は当たり前にできると思ってしまいがちだが、そう簡単なものではない。しかも、それを文字表記化するなど、ちょっとやそっとに出来る類の仕事ではない。そんな太安万侶の苦闘とはどの様なものだったか、触れておくことは思っている以上に重要だと思う。ここらをスルーした「古事記」読みは、避けるべきと思う。(但し、序文を偽書とみなすなら別。)

小生の印象からすれば、太安万侶がそこで遭遇したのは、それこそ、"文明の相克"ということになろう。

どういうことか。・・・

先ずは、現代人の観念のいい加減さを確認しておく必要があろう。
≪ギリシア文明≫の末裔たる、現代グローバル言語の英語だが、その表記文字を"表音"とするが、これはあくまでも分類の都合の用語であって、実態は表音とはかけ離れていることは学んだ途端に誰でもが分かっていること。(そういう意味ではすでに述べたように、日本語のスチールとスティールの違いはまことに正しい訳で、両者のアルファベット綴りは全く異なると言うに、表音標記文字では同一なのだから。要するに、子音言語であり、子音構成に合わせて母音は勝手に想像せよという姿勢が如実。)

これに対して、印欧言語と言われていても、東南アジア〜インド亜大陸に広がる≪印度文明≫系の表記文字は、いかにも話語を忠実に文字化したい意識芬々。できるだけ忠実に表記しようと努力しており、≪印度文明≫の精神は全く異なっていることがよくわかる。
太安万侶はこの写音性について十二分に理解していた可能性が高い。
音表記の1文字の発音構造はこんな具合。・・・
【サンスクリット語】
  <🆅母音+≪🅒特定音【ṃ or ḥ】 or 無≫>
  <≪🅒子音 x n≫+🆅母音+≪🅒特定音【ṃ or ḥ】 or 無≫>
ṃ/ḥを付けないなら、子音で終わることが無い倭語とよく似ていることがわかる。(「古事記」では、末尾音の"n"音は収録されていない。吽[hūṃ]は扱えないのである。)
【倭語】
  <🆅母音>
  <🅒装飾子音+🆅主母音>

アという開放的で楽に発生する言葉を原初と考える話語社会としての類似性が見てとれる。📖"ア"と"あ"を規定
しかし、サンスクリット語は、二重母音や長母音を有する上に、表記は短母音でも実質的発声は長母音だったりするので、本質的なところでの差異は小さなものでは無い。・・・特筆すべきは、倭語は連続母音は禁忌な点。1音の末尾は必ず母音だから、音節形成に当たって、単独母音は頭でしか用いることができないというルールでもある。えらく異なった習慣と見て間違いない。
しかし、この倭語ルールは、雑種民族としての雑炊言語を旨とするなら、自然体で生まれる類のもの。母音言語に徹しており、母音の複雑さなどご免被るからだ。

文字化の流れは、以下の様に考えられている。(尚、セム系は文字表記の根本思想が異なっていると思われ、無縁と考えた方が良かろう。)
𑀅 ブラーフミー(梵天創出)文字@前3世紀
  ↓北方系
  グプタ朝文字@4世紀
  │ ↓
  │ シッダマートリカー(成就した)文字@6世紀
  ↓ └→悉曇文字=梵語(サンスクリット語)用文字
  ナーガリー文字@7世紀
  ↓
अ デーヴァナーガリー文字@10世紀
なんといっても、インド亜大陸には全く残存していなさそうな梵語文字が日本列島では、現時点でも至る所で目にすることができるし、未だに学んでいる人々の数も少なくないのだから、いかにも辺境の吹き溜まり文化的現象である。
ついでながら、朝鮮半島はツングース系小中華思想の風土であり、焚書と敵対宗族抹殺を繰り返して来た地域で、日本列島とは体質が全く異なる。この辺りを間違えないようにしたいもの。半島には古い情報はなんら残っておらず、その歴史を辿ることは不可能だが、フィクションが横行しているからだ。文字が確立したのは、15世紀であり、倭語と比較すること自体になんの意味も無い。半島はその時点まで無文字社会だった訳ではなく、支配層は、属国として漢語一色の社会だったのだから。(古くからの渡来人を含む漢語系勢力はすべて抹殺された可能性を示唆していることになろう。)
  インド系文字→チベット吐蕃王朝文字@7世紀→パスパ文字[元朝/モンゴル]@13世紀→ハン(偉大なる)グル(文字)[李朝]15世紀

サンスクリット語の文字表記方法を踏まえて、倭語を漢字で表記しようと試みたなら、まともに対処するなら、その労力たるやただならないことはすぐにわかった筈。例外は少なくないものの、漢語とは、漢字1文字づつにバラけた言語であり、言語とは<話語⇒表記文字>なのが当たり前なのに、漢字1文字が話語発音の最小単位と規定されたので、<表記文字⇒話語>という逆プロセスも頭に組み込まれているからだ。それこそが、天子独裁-官僚統治を旨とする≪中原文明≫の特徴でもあるが。
例外も少なくないものの、その漢字の音の構成は以下の様になる。・・・
【漢語】
  <🅒頭子音【声母】+🆅補助母音/介音【韻頭】+
       🆅主母音【韻腹】+🅒末音【韻尾】

これで母音語の倭語の音を表記しようとするのだから、常識的には無理筋と言わざるをえまい。例えば、"阿"は現代標準音では[ā]となるが、上記のルールに則れば[*qaːl]となったりしかねない。
「古事記」仮名は"阿"から始まるが、そう簡単な話でもないことがわかる。📖母音初音は阿

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