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■■■ 「古事記」解釈 [2021.5.5] ■■■
[124] 白犬の魅力には勝てず
「古事記」には犬の話は1つのみ。忠犬話か、はたまた無用と蔑視する対象かと思いきや、なんと、現代のペットショップの商品犬を思わせるような献上物として登場。

[16]大雀命仁徳天皇の行幸話。
  <初大后 坐 日下 之時>

序文で、姓の日下は玖沙訶[くさか]と謂う、とされている。この話は地名だが、姓名でもある。
[9]若倭根子日子大毘毘命開化天皇📖春日之伊邪河宮
└┬△意祁都比売命(丸邇臣先祖 日子国意祁都命の妹)
○日子坐王
└┬△沙本大闇見戸売(春日 建国勝戸売の息女)
┼┼├┬┬┐
┼┼○沙本毘古王(祖:日下部連, 甲斐国造)
┼┼┼袁邪本王(祖:葛野之別, 近淡海 蚊野之別)
┼┼┼┼沙本毘売命/佐波遅比売(⇒伊久米天皇の皇后)
┼┼┼┼┼室毘古王(祖:若狭耳別)

八千矛神が土着勢力の女王を娶ることで、平定していった風習に倣ったかのようなイベント。
  <自 日下之直越道 幸行 河内>

日を"くさ"と読むことなどありえず、"日"信仰勢力としては天孫系より古くにこの地に入って統治していたことを誇る表記と考える以外にない。太安万侶的発想なら、倭を日本でなく日下と記載したかも知れないということになろう。
史書が日本をヤマトと読ませる由縁は、日下の存在にあると示唆しているようなもの。序文は腹をくくって思い切って書いたのであろう。

ともあれ、天皇としては、歴史が古い、大和の葛木勢力や河内・難波の日下勢力の併存化をついに打ち切ることにしたのである。日向で敗北以来の懸案事項だったのだろうから。

[16]大雀命仁徳天皇📖難波之高津宮
└┬△髪長比売(日向之諸県の君 牛諸の娘)
├┐
○大日下/波多毘能大郎子

└────────────┐
└┬△石之日売命(葛城之曽都毘古の娘)…皇后
├┬┬┐┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼
[17]大江之伊邪本和気命
┼┼墨江之中津王
┼┼┼[18]蝮之水歯別命
┼┼┼┼[19]男浅津間若子宿祢命
┼┼┼┼└┬△忍坂之大中津比売命(意富本杼王の妹)
┼┼┼┼┼├┬┬┬┬┬┬┬┐
┼┼┼┼┼┼┼┼[20]穴穂命
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┌──────────┘┼┼┼
┼┼┌───────────┘
[21]大長谷若健命雄略天皇📖長谷朝倉宮
└┬─△若日下部命/長日比売命/波多毘能若郎女
《無》

想定行幸ルートは自明。・・・
長谷朝倉宮
 ⇒海石榴市⇒初瀬川〜大和川〜竜田川
 ⇒平群⇒直越道⇒暗峠
 ⇒日下⇒河内湖草香江日下江)…東征敗戦の地
 ⇒志貴縣主神社@河内(藤井寺惣社)

ここらで、天皇は、山に登って望國。📖王朝祭祀歌謡の的確な記載
  <登山上望國内者 有上堅魚作舍屋之家>

葛城の山を一言主が大王として支配しているのと同様に、この地も大王と並ぶ立つ勢力地域だったのであろう。

ところが、宮の様な堅魚装飾の屋根の家があり、志幾之大縣主が居住している。これに天皇は大立腹。家を燃やしてしまえと命ずる。

大縣主は平謝りして恭順を示すとともに貢物献上。
  <布縶 白犬 著鈴>

これが大奏功。

おそらく紀州犬。(紀伊半島の様々な地場の中型和犬種の総称。白はアルビノではない。躾がなされていれば、主人の指示には極めで忠実で忍耐強く、大人しく優しい性情の犬と見られている。ただ、それは、主人とその家族以外にしか当てはまらず、部外者には関心を示さないというより、強い警戒心で対応するのが普通。必要とあらば命を顧みず徹底的に戦うので、獰猛な面もある。)

犬を登場させたのは秀逸。
だからこそ、天皇の臨機応変な対応が光るのである。
🐕「播磨國風土記」の犬登場譚からすると、高貴な姫が白犬を飼う風習があったのかも知れない。確かに、番犬としては最適と言えよう。
世の中的には、政治的安定を図るために、忠義犬の話の喧伝が目立って来た時代と思われるが、太安万侶はその手の話には目もくれない。そこが、「古事記」の優れたところでもある。・・・
   -----<賀古郡松原>[12]景行天皇印南別嬢に求婚:隠れた姫に犬吠-----
而覓訪之 於是 白犬 向海長吠
天皇問云 是誰犬乎
須 受武良首対曰 是別嬢所養之犬也

   -----<託賀郡伊夜丘>[15]応神天皇猟犬墓-----
伊夜丘者 品太天皇{猟}犬名麻奈志漏 與猪走上此岡 天皇見之云射乎
故 曰 伊夜岡 此犬與猪相鬪死 即作墓葬 故 此岡西有犬墓


「古事記」成立時は、すでに仏教は支配層に限れば神祇職も含め普及しており、犬をどう描くかで、その書の立場も見えてくることをかんがえれば、白犬の魅力だけをさらりと記載する方針に鋭さを感じさせる。
「今昔物語集」で多少頭の体操を行ったせいもあるが。・・・

鎮護仏教と六道輪廻の論理的繋がりは浅学の身には理解し難いところがある。仏教が広まれば自然と"畜生道"の、身近な代表でもある犬の扱いも変わってくる。罪なことばかりする非倫理で反社会的なことしかできぬ生き物と見なすようにならざるを得ないからだ。しかし、狩猟は、生活そのものだったり、王権の象徴行事でもあるから状況は複雑である。
末尾に「今昔物語集」の犬/狗登場譚を並べてみたが、全部で20ほどあり、犬のイメージは極めてバラエティに富んでいる。たまたまそうなっているのではなく、編纂者が十分に考えて収載決定したと見てよいだろう。

倭では、1に狩猟犬、2に番犬で、食用犬は目立たずといったところか。別途、神のお遣い役とされるが、その一方で野良の世界も。もともと、バラバラ。聖書のヒト=羊のコンセプトは、牧羊犬あってのもの。倭では、原の青草を集団で食む飼育動物を嫌ったこともあって、この点では、犬の社会についての見方はかなり異なると言ってよさそう。倭では、個々の犬を、家族あるいは家臣的に迎え入れることには極めて前向きだが、牧羊犬的独自ヒエラルキーの犬社会には馴染まなかったようだ。尚、純遊牧王権の祭祀供犠犬については、同様な行事があったようにも見えるし、そうで無いようにも解釈可能なので、なんとも言い難し。


《「今昔物語集」の犬登場譚》(海外で公開電子ファイル化されていないため、網羅性はなんとも。再確認せずなので、ミスもあるかも。)📖今昔物語の由来INDEX
  ■巻三■天竺(釈迦の衆生教化〜入滅)
   -----19〜20 衆生救済:供養-----
[巻三#20] 仏頭陀給鸚鵡家行給"この犬は汝の父の兜調の生まれ変わりである。"📖聖鸚鵡
  ■巻九■震旦 付孝養(孝子譚 冥途譚)
   -----21〜30 冥途報(殺生 v.s. 不殺生)-----
[巻九#22] 震旦兌州都督遂安公免死犬責【畋猟悪報…殺"鷹餌用"犬】殺生の罪み、極て重し。📖李神通 📖不殺生戒
   -----37〜42 現世反孝養報----
[巻九#42] 河南人婦依姑令食蚯蚓羹得現報📖反孝養現報
  ■巻十一本朝 付仏法(仏教渡来〜流布史)
   -----1〜12 僧伝記-----
[巻十一#11] 慈覚大師亙唐伝顕密法帰来大師の衣の袖を咥えて引っ張るので、ついていくと、抜けられそうにはない水門に付いた。しかし、犬はそこから大師を引っ張り出したのである。📖円仁入唐物語 📖伝教大師の薬師仏像 📖僧兵抗争
  ■巻十三■本朝 付仏法(法華経持経・読誦の功徳)
   -----5〜16 読誦功徳-----
[巻十三#_9] 理満持経者顕経験自分の死骸は野に棄て置かれているのだが、百千万の狗がそれを喰っていて、その傍に自分がいてそれを見ている。📖犬譚 📖多量読誦
  ■巻十四■本朝 付仏法(法華経の霊験譚)
   -----1〜28 法華経-----
[巻十四#16] 元興寺僧蓮尊持法花経知前世報📖前生蟋蟀の僧
[巻十四#21] 比叡山横川永慶聖人誦法花知前世📖前生蚯蚓の僧 📖源信物語 [5:横川の僧]
  ■巻十五■本朝 付仏法(僧侶俗人の往生譚)
   -----26〜30 沙彌-----
[巻十五#26] 播磨国賀古駅教信往生死人一体。狗・鳥が集まりそれを争って食っていた。📛念仏信仰先駆者
  ■巻十九■本朝 付仏法(俗人出家談 奇異譚)
   -----1〜18 俗人出家-----
[巻十九#_3] 内記慶滋保胤出家「なんとも、あさましき事。」📖慶滋保胤 📖「日本往生極楽記」 📖両界供養法
   -----35〜44 三宝加護奇譚-----
[巻十九#44] 達智門棄子狗密来令飲乳📖狗人 📖三宝加護奇譚
  ■巻二十■本朝 付仏法(天狗類 冥界の往還 "その他")
   -----15〜19 冥界-----
[巻二十#16] 豊前国膳広国行冥途帰来📖元旦に猫登場
  ■巻二十六■本朝 付宿報
   -----7〜10 転地繁栄-----
[巻二十六#_7] 美作国神依猟師謀止生贄📖猿神退治
[巻二十六#_8] 飛騨国猿神止生贄📖猿神退治
   -----11〜18 財物獲得-----
[巻二十六#11] 参河国始犬頭糸くしゃみをした白犬の鼻の穴から2本の糸が出てきた。📖犬頭糸
   -----19〜24 寿命-----
[巻二十六#20] 東小女与狗咋合互死狗が咋いついており、女童もまた同じで、互いに歯を咋い違えてどちらも死んでいた。📖落盤事故生還
[巻二十六#21] 修行者行人家祓女主死📖犬山猟男
  ■巻二十八■本朝 付世俗(滑稽譚)
[巻二十八#29] 中納言紀長谷雄家顕狗犬が入り込んで、頭を器につっこんで外れなくなってしまった。📖紀長谷雄 📖平安京の妖怪屋敷
  ■巻二十九■本朝 付悪行(盗賊譚 動物譚)
   -----1〜30 盗賊・殺人者譚-----
[巻二十九#_8] 下野守為元家入強盗身分高き女房を人質に取ったが、大宮の辻に棄てて逃げた、と。その女房は凍え死んで、野犬に食べられた。📖花山院 📖京都の天皇
   -----31〜40 動物譚-----
[巻二十九#32] 陸奥国狗山狗咋殺大蛇🐍📖犬譚
  ■巻三十一■本朝 付雑事(奇異/怪異譚 拾遺)
   -----11〜18 異界話-----
[巻三十一#15] 北山狗人為妻夫が帰ってきたが、それは犬だった。📖狗人

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