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■■■ 「古事記」解釈 [2022.3.31] ■■■
[454][安万侶文法]琉を愛好
琉球という言葉で、琉はよく知っている漢字であるが、名前に使うことはあるものの、沖縄関係用語を除けば、ほとんど使われることは無い。この地名にしても、中華帝国が沖縄を琉球の隣の大琉球と命名したことから来る。
これを考えると、「古事記」成立の頃にこの漢字が、識字層のなかでポピュラーだったとはとうてい思えない。

しかるに、太安万侶はこの文字を音素表記"ル"に使っている。国史では無視されて当然の文字だと思うが。

≪琉[⺩+㐬]/瑠≫=瑠璃([@胡語]罽賓國出璧流離"石之有光者也")
  [呉音]
  [漢音]リュウ
  [訓]
【意味】仏教の七宝の一つとしての語彙vaiḍūryaの漢訳
   ・・・ラピスラズリ/青金岩だろう。

この文字の登場は、冒頭の一番目立つ箇所。・・・
  "久羅下那州[くらげなす] 多陀用幣[ただよへ][]"之時
目立つという意味は、海月が突然登場するからではなく。<琉字以上十字以音>との割注があるから。<訓では、この文字はこのように読む。>との注なら漢字翻訳の注釈として違和感はないが、漢語の対応語彙があるのに音素表記しているからだ。"水母[くらげ]なす[ただよ-へ][]時"として、漢文非対応部分だけハイライトを当てる方法は採用しなかったことになる。確かに、ココは厄介な文法である。一般名詞に接尾語が付くことの説明が必要そうだし、"〜ふ"という動詞の活用形の"〜へ"に助動詞が付いて、"【動詞】る"になっていることを、くどくど書くなどおよそ馬鹿げている訳で。
ただ、音読みが1文字1音素であるとの説明は序文にもないから、"くらげなすただようへいる"と読むのかとも思える。そのような記載不要と云うことは、この5文字2句は常套的な表現であり、意味も重層化している可能性を示唆している。例えば、"暗気成す-只夜経る"というイメージがかぶさるという手。倭の歌謡表現とはそのようなもので、素朴な一意的な。描き方では無かった可能性があろう

この琉だが、もちろん、神や天皇の名称表記にも使用されている。
  "於母陀"神 次妹 "阿夜訶志古泥"~
  大倭根子日子國"玖"命/[8]天皇
このような表記方法は太安万侶の創作だろうが、本人的には、かなり気に入っているのではなかろうか。ラピスラズリの色を知っていたと見て。
だからこそ、"荒ふる"という言葉にも使ったのでは。
  言向平和 荒"夫"神 等
  東方十二道之 荒"夫
"神
  悉言向 荒"夫
"蝦夷 等
荒削りの生々しさを示す言葉でのル表記は琉がピッタリということで
  御祖息長帶日賣命 釀待酒以獻 爾 其御祖御歌曰:
 ・・・神祝き 祝き狂ほし[加牟菩岐 本岐玖本斯]・・・

どうしても、そんなことを考えてしまうのは、わざわざ琉=瑠を使わなくても、音素表記するだけなら留を使ってもよさそうに思うからだ。
  [仮名]ル=流の終画 る=留 ⇔ [「古事記」表記]流 留 所 琉
琉になんらかの思い入れがあるのは間違いなさそう。・・・

実際、割注での訓読みの音素表記では、留なのだし。
[音素]"[]"の用例:
  割注:<訓疎云"奢加">
  割注:<訓鳴云"那">
  割注:<一名云"宇佐由豆">(自頂髮中採出設弦)
  歌@沼河比賣之家:・・・那久那登理加・・・
  歌@宇陀:・・・志藝和那波・・・
[訓]"[とど]まる"の用例:
  飮其酒 於是飮醉 伏寢
  又遣曷神以問天若日子之 淹
所由
  唯
其弟木花之佐久夜毘賣以・・・此令返石長比賣 而 獨木花之佐久夜毘賣 故
  至 美和山 而
神社
  故廻其軍 不急攻迫 如此逗
之間
  然
比婆須比賣命
  
河内國之志幾
  逃遁渡來
于難波
  故更還泊多遲摩國 即
其國 而
  是以詔曾婆訶理:「今日
此間 而 先給大臣位 明日上幸 留其山口」
  詔之:「今日
此間 爲祓禊而」
  後更亦幸行吉野之時
其童女之所遇

もっとも、単純に解釈する方が自然だとの見方もできる。
太安万侶としては、ルは訓読みが無い琉が誤読を避けるには一番望ましいと思ったろう。しかし、仏教の一部の語彙にしか使われない文字であり、お勧めもできかねるといったところか。
琉=瑠なので、偏⺩を外した表音部分を音素表記文字にするということで≪留≫がよさげ、ということに。
あるいは、琉の表音部分はあくまでも㐬だから、それにこだわって偏を⺩⇒氵に変えて、≪流≫を使う手もあろう。
問題は、訓読み文字として普通に使う文字であるため、混用すると読みづらい点で避けたいところ。しかし、歌の部分は全部が音素文字であるから、間違うことは無いから、最良と云えそう。・・・
  歌@須賀宮:・・・夜幣賀岐都久・・・
  歌@沼河日賣家:・・・和加夜牟泥遠・・・
  歌@嫡后須勢理毘賣命:・・・牟那美登岐・・・牟那美登岐・・・
       曾米紀賀斯
邇・・・牟那美登岐・・・
  歌@其后:・・・宇知微・・・加岐微・・・和加夜牟泥遠・・・
  歌@喪屋:阿米那流夜・・・宇那賀世 多麻能美須麻 美須麻能・・・
ここで登場する"美須麻流(御-[]まる)"は漢字語彙化を考えて記載しているようだ。沢山の勾玉を紐を通した祭祀時の装飾品なのだろうから、この文字こそ、ラピスラズリの琉が似つかわしいと思うのだが。・・・
  各纒持 八尺勾璁之五百津之 "美須麻流"之珠 而
  令作 八尺勾之五百津之
御須麻流之珠 而
  取著 八尺勾璁之五百津之
御須麻流之玉

≪流≫のイメージが美須麻流に被っているのかも知れない。

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