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■■■ 「古事記」解釈 [2022.4.2] ■■■
[456][安万侶文法]"わ"は和
古代の"わ"と言えば、すぐに漢字の倭が思い浮かぶが、この文字は中華帝国側が国家として認定する際に使用されたもの。呼び方も、本来的には変えようがないが、"やまと"と読むことにしていることが多い。
一般的には、その読みの場合は大和を当てるが、「古事記」はそのような表記は避けている。倭の地理的範囲についても、狭くもあり、広くもあり、という書き方である。
≪倭≫
用例は単純明快なものだけ。・・・
【嶋】
大倭豐秋津嶋
【地】
自出雲 將上坐倭國 而
吾者 伊都岐奉 于 倭之青垣東山上
浮倭之市師池
{其曙立王 謂 倭者師木登美豐朝倉曙立王}
{倭屯家}
於西方 除吾二人 無建強人 然於大倭國益吾二人 而
於是息長帶日賣命 於倭還上之時 因疑人心
阿知直 盜出 而 乘御馬 令幸於倭・・・爾 阿知直白:「墨江中王 火著大殿 故 率逃於倭」・・・上幸於倭之時 到大坂山口・・・乃明日上幸 故號其地 謂近飛鳥也 上到于倭
爾 天皇 望令問曰:「於茲倭國 除吾亦無王・・・」
其子孫上於倭之日

【天皇】
神倭伊波禮毘古命(~倭天皇/~倭伊波禮毘古天皇@序文) 大倭日子鉏友命 大倭帶日子國押人命 大倭根子日子賦斗邇命 大倭根子日子賦斗邇命 大倭根子日子國玖琉命 若倭根子日子大毘毘命 白髮大倭根子命
【皇族】
倭飛羽矢若屋比賣 倭日子命 倭比賣命 倭建命/倭男具那命 倭根子命
【臣】
倭田中直 倭淹知造 倭國造 倭漢直
倭は音素表記としての"わ"としては使わないことにしたようである。すべて"やまと"と読むのが常識と云わんばかり。

そうなると、古事記の歌での"わ"の音素表記文字は、原則、"和"のみということに。
≪和[口+禾]
  [呉音]
  [漢音]
  [唐音]
  [訓]なご-む/なご-やか やわ-らぐ/やわ-らげる
この方針は、最初の方で、<訓別云和氣>との割注があるから、読者もすぐに気づく。歌や神名等での"和"は"わ"表記と解釈できる訳だ。この他、オノマトペででも"佐和佐和邇"として使われており、音感の確認も怠りない。

この方針は、「万葉集」とは違っている。
≪輪≫
「古事記」非使用 (地名は"美和"。)
「万葉集」巻四#712 三輪[みわ][][はふり][]
実に真面目な姿勢と云えよう。仏教を知れば、倭に車輪が無いことに気付かない筈は無いから、"輪"は不要文字だからだ。似た意味で使うなら"環"だが、登場していない。

それでは原則にえらく忠実かと云えば、そんなことは無い。

それは"わに"の表記で見ることができる。(小生は、この名詞は鰐であると見ているが、日本列島にはこの時代には鰐は棲息しておらず、壱岐方言での鮫であると決められている。「古事記」の描き方からすれば、魚類と見なすのは不可能である。)
もちろん、"わ"表記は"和"である。
---和邇 用例---
【裸菟@稻羽】・・・欺海和邇・・・即伏最端和邇・・・
【@綿津見神之宮】即悉召集和邇魚問曰:「・・・
  一尋和邇・・・故爾告其一尋和邇・・・即載其和邇之頸 送出
  ・・・其和邇將返之時・・・故其一尋和邇者 於今謂佐比持神也

【豐玉毘賣命】化八尋和邇 而 匍匐委蛇
【品陀和氣命-御歌曰】
   伊知比韋能 和邇佐能邇袁 波都邇波…櫟井の 丸邇坂の土を 初土は
【名】和邇吉師・・・<此和邇吉師者 文首等祖>

・・・ここに例外が持ち込まれてくる。

上記のように、坂名(佐のみなので一音不足だが。)と氏族名を和邇と書いているが、これ以外は異なる文字を当てているのだ。しかも、2音の頭が"わ"ならわかるが、どう考えてもこれは"まる"でしかなく、実際そう読めそうな王名も収録されている。
このことは、和邇という名称が忌避されたことを意味していよう。("和珥"とも書くが。)

≪丸≫
---丸邇 用例---
丸邇[わに]_の[おみ] 丸邇坂 丸邇之比布禮能意富美 丸邇池 丸邇臣口子 丸邇之許碁登臣 丸邇之佐都紀臣 丸邇日爪臣
---丸 用例---
[まろ][]

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