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■■■ 今昔物語集の由来 [2020.11.12] ■■■
[500] 「今昔物語集」歌集

"和歌集"📖→改訂増補版である。
ようやくにして、「今昔物語集」編纂者撰和歌集の全体構成を分析思考から離れて眺めることができるようになってきたということで。・・・

収録歌の多くには詞書が付いているから、それに基づいて、独自に状況説明を執筆し、その後に歌を記載する体裁をとっている。と言っても、ショート歌物語を目指しているのではなく、当該歌にどのような意味があるかわかるような最小限の説明が付けられただけ、と言ってよいだろう。もちろん、潤色を感じさせるものもある。
と言って、そこから、歌論書的に考え方を打ち出そうという気はなさそう。だが、単に、好みの歌を選んでみただけとも思えない。
従って、俯瞰的に、コミュニケーションの道具としての歌の社会性を眺めてみましたというところではなかろうか。

勅撰和歌集からの収載が過半だが、それ以外もかなりの数を占めており、膨大な数の歌の暗記を強いられてるインテリ階層にご存じなさそうな歌も入れることで、押し付けられている鑑賞眼が通用しないような配慮がなされていると見ることもできよう。
勅撰の後拾遺1086年、拾遺1005-7年がほとんどで、古今905年は例外的なのが特徴である。(成立後収録集では、金葉1126年、詞花1151年、続古今1205年。)

--- 公的行事での歌 ---
延喜御屏風伊勢御息所読和歌語1📖伊勢御息所の歌
屏風歌(春の山道)
敦忠中納言南殿桜読和歌語1📖藤原敦忠の歌
花見歌
公任大納言読屏風和歌語1📖藤原公任の歌
屏風歌(藤)
--- 歌の生活 ---
公任大納言於白川家読和歌語8📖藤原公任の歌
山荘での歌遊び
--- 歌枕の世界 ---
在原業平中将行東方読和歌語4📖在原業平の歌
旅歌(「伊勢物語」東国下り)
業平於右近馬場見女読和歌語4+1📖在原業平の歌
旅歌(「伊勢物語」恋しさ)
藤原実方朝臣於陸奥国読和歌語3📖藤原実方の歌
旅歌(陸奥赴任)
--- 心に染みる哀悼歌 ---
藤原道信朝臣送父読和歌語20📖藤原道信の歌 📖紅梅情緒
哀悼歌+一般歌多数(清原元輔作含む)
藤原義孝朝臣死後読和歌語3📖藤原義孝の歌
哀悼歌
円融院御葬送夜朝光経読和歌語2📖円融天皇崩御哀傷歌
哀悼歌
一条院失給後上東門院読和歌語2📖定子と彰子の歌
哀悼歌
朱雀院女御失給後女房読和歌語1+1📖虚貝の歌
哀悼歌
土佐守紀貫之子死読和歌語1📖紀貫之の歌
哀悼歌
--- "しみじみ"とさせる歌 ---
安陪仲麿於唐読和歌語和歌語1📖紀貫之の歌
在震旦望郷歌
小野篁被流隠岐国時読和歌語2📖隠岐と明石の歌 📖小野篁
配流歌
於河原院歌読共来読和歌語5📖黄昏河原町の歌 📖源融
懐古地歌
--- 言葉の武器としての歌 ---
伊勢御息所幼時読和歌語1📖伊勢御息所の歌
去った恋人への離脱歌<秀歌>
参河守大江定基送来読和歌語1📖圓通大師大江定基
愛着鏡譲渡歌
七月十五日立盆女読和歌語1📖お盆食物供養できぬ女の歌
亡親供養できぬ言い訳歌
筑前守源道済侍妻最後読和歌死語1📖筑前守侍の妻の歌
旧夫への辞世歌
大江匡衡妻赤染読和歌語3📖赤染衛門の歌
心変わりの夫への警告歌<歌人>
大江匡衡和琴読和歌語3📖大江匡衡の歌
揶揄対応の機転歌
祭主大中臣輔親郭公読和歌語3📖大中臣輔親の歌
歌詠不可欠時の機転歌+猟官歌
陽成院之御子元良親王読和歌語1+1📖元良親王の歌
女性落としの技巧歌
大隅国郡司読和歌語1📖大隅国郡司の歌
刑罰釈明歌<実作>
播磨国郡司家女読和歌語1📖播磨国郡司家の女の歌
無体な要求拒否の知的表現歌<捨身飼虎前世譚>
藤原惟規読和歌被免語1📖藤原惟規の歌 📖紫式部の父弟 📖 大斎院
陳謝代替の技巧歌<本歌・季語・歌語>

ただ、歌物語的展開は別途試みているところが面白い。想いの結晶化だけでなく、物語の豊富化にも大いに使えるということ。
 巻三十 本朝 付雑事/雑談(歌物語 恋愛譚)[#1〜14:6,7は後半欠文]
#1, 2, 4, 5, 9, 13📖歌物語(姥捨山)
#3, 8, 10, 11, 12, 14📖歌物語(飼い葉桶)

これ以外の、番外収録歌も目立つものは並べておこう。

「古今和歌集」巻一春に収載されている歌。
[巻二十ニ#_5]閑院冬嗣右大臣子息語1📖 藤原氏列伝
后が詠んだ定番の桜。
「拾遺和歌集」巻一春所収の下の句のみも。
[巻二十七#28]於京極殿有詠古歌音語0.5📖京極殿の和歌
御霊詠みし桜。
和歌ではないが。
[巻十五#42]義孝少将往生語0📖世尊寺の月 📖紅梅情緒
歌的な、しっとりとした往生。

上記27譚では、できる限り僧の歌を避けたようにも思えるし、仏法が題材になると心情的には今一歩の歌が多いせいか、理由のほどはわからぬが、釈教歌色が薄いのは確か。百人一首的である。釈教歌を別途集めようとの意図もなさそうだし。
(「後拾遺和歌集」の場合、10分類(四季,賀,別離,羇旅,哀傷,恋,雑)で、雑6に神祇,釈教の部がある。)

[巻二十八#_3]円融院御子日参曽祢吉忠語0📖曽丹
卑官(六位)排除…⑩↑
[巻二十四#23]源博雅朝臣行会坂盲許語2📖琵琶の名手 源博雅 [蝉丸]
芸道専心歌
[巻二十八#12]或殿上人家忍名僧通語1📖祇園別当
冗談狂歌

釈教歌類。
[巻十九#_1]頭少将良峯宗貞出家語2📖僧正遍昭
出家者歌…歌人としての扱いでもあろう。
[巻十七#31]説経僧祥蓮依地蔵助免苦語1📖地蔵代受苦
尼が亡夫(僧)の孤独感溢れる歌を聴く。
[巻十七#32]上総守時重書写法花蒙地蔵助語3
地蔵菩薩も和歌を詠む。…別途取りあげよう。
[巻三十一#23]多武峰成比叡山末寺語1📖多武峰
死期を悟って増賀上人詠みし。
🙏[巻十九#_9]依小児破硯侍出家語【侍 忠太⇒性空上人】6📖俗人出家
歌だけすでに掲載したが📖和歌集雰囲気を攫むため以下再掲。(性空聖人は有名人。📖性空聖人「撰集抄」巻六#10性空上人事によれば、藤原公任[撰]:「拾遺抄」996年に歌が掲載されているそうだが、同一歌があるか調べていない。)
  心から 荒れたる宿に 旅寝して 思ひもかけぬ 物思ひこそすれ
  明けぬなる 鳥の鳴く鳴く 微睡まで こはかくこそと 知るらめや君
  睦言も 何にかはせむ 悔しきは この世にかかる 別れ成けり
  垂乳根の 厭ひし時に 消えなまし やがて別れの 道と知りせば
  涙川 洗へど落ちず 儚くて 硯の故に 染めし衣は
  射干玉の 髪を手向けて 別れぢに 遅れじとこそ 思ひたちぬれ


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