■■■ 「古事記」解釈 [2024.3.9] ■■■
🔰[836]読み方[9]
「古事記」では仏教臭を徹底して取り除いているが、反仏教の書として編纂された筈がない。太安万侶は火葬されているし、仏陀への尊崇を示す珠も副葬されており、仏教徒と見なすしかないからだ。
しかし、全体の印象からすれば、㊥巻は道教の影響、㊦巻は儒教の影響が強いが、仏教(因果応報)の影響を感じさせるストーリーが掲載されているとは言いかねる。このことは、皇統譜を冷静に整理した結果、皇位継承に仏教の影響はほとんど無いと判断したことになろう。
一般には、佛聖とされる聖徳太子の時代は日本仏教の黎明期とされ、それを無視することは奇異な印象を受けるが、朝廷総体としては、信仰や理念を深く考えた太子は例外的存在で、先進文化として風習的に取り込んだという見立てか。
ただ、"ものの考え方"という観点からすると、「古事記」には仏教の影響がかなり入っていると見てよさそう。
それが見てとれるのが、漢字の用法。＜覺＞が典型。
この文字は、基本、以下の様に使われている。・・・
漢語＜
＝夢/睡眠/狂気/酒酔 から醒める。
和語＜
＝"感覚"として。
しかし、この漢字は仏教用語としては、どちらにも属さない語義があてられている。しかも、決定的に重要な意味として。・・・
卍覚(覚者＝仏陀 仏教の究極目的は＜さとり＞。)
…真理に気付かされる。 覺 v.s. 不覺
卍悟＠禅
…自ら真理を見いだす。 悟 v.s. 迷
⇒【智】
…その能力。
卍証＠親鸞
…あるがままの真理が明らかになる。
「古事記」では、悟・証は用いず、＜覚＞。
特徴的なのは＜敎覺＞という熟語を用いている点。出典不明だが、極めて独自性が高い表現と見てよかろう。
【＜覚＞用例】
覺夢而敬神祇
@(漢文)序文 ㊀混元～飛鳥
「恐不覺御名」
@㊤㋜速須佐之男命 ⑦八俣遠呂智
高木大神之命以覺白之 ・・・故隨其教覺
@㊥ ❶神倭伊波禮毘古命㊃布都御魂・八咫烏
覺于御夢曰 ・・・如此覺時
@㊥⓫伊久米伊理毘古伊佐知命㊂本牟智和氣御子
專汝泥疑教覺
@㊥⓬大帶日子淤斯呂和氣天皇㊁小碓命/倭建御子
言教覺詔者
@㊥⓮帶中日子天皇⓶崩御:筑紫之訶志比宮
教覺之狀
@㊥⓮帶中日子天皇⓷建內宿禰:殯宮
備如教覺
@㊥⓮帶中日子天皇⓸度幸新羅國
隨奴不覺而過作甚畏
@㊦㉑大長谷若建命㊁志幾之大縣主
恐我大神 有宇都志意美者不覺
@㊦㉑大長谷若建命㊅葛城之一言主大神
「古事記」を読むなら、こうした太安万侶流の漢字用法の意味を感じ取る必要があろう。解説書が無いと、自分で検討するしかないので、かなり厄介である。
--- 太安万侶:「漢倭辞典」---
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