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■■■ 「古事記」解釈 [2023.2.5] ■■■
[歌の意味10]枕詞一瞥
発祥も語義も不詳だらけであり、ほとんどが全く意味不明とされている。そのため、文法の適用外とならざるを得ない。これでは、とてもジャーゴンとはみなせない。
にもかかわらず、そんな語彙を楽し気に常用するとしたら、呪語で無いなら、その感覚はカルト的な精神土壌を示していると考えるしかなくなってしまうのでは。(もともとは神の言葉だったなら別だが。)
従って、この辺りは、冷静に直視した方がよいと思う。

はっきり言えば、枕詞を理解不能としておきながら、歌の意味は解釈できると考える論理的正当性は無いということ。逆に言えば、枕詞を使う理由がわかれば、古代の歌の本質が見えてくる可能性が高いということになる。

そんなことは誰でも考えることだが、わかっていてもできないのは、仕訳が難しいからだろう。
おそらくは、深く考える必要もない詞もあっておかしくない。戯れ歌を目指すなら、それこそ語呂合わせや脈絡なき比喩を用いて、いくらでもこのような修飾句を思い付くからである。しかし、問題は、そう見なす根拠は歌の解釈しかないので、見方が四分五裂になりかねず躊躇して当然だと思う。
ただ、定番句にして覚えやすくする効果は絶大。しかも、一句加えることで全体の調子がスムースになるから、口誦叙事詩を聴かせる時代であれば、大いなる使用効果が期待できるから、多用されて当たり前だと思う。
しかしながら、文字だけで、歌人の独自の情緒を伝えたい時代となれば、ほとんどが、単なる怪しき詞としてしか伝わらないから、逆効果となろう。

「古事記」成立期には、すでに枕詞のこうした効果を期待する状況ではなくなっていた可能性があるし、その意味もわからなくなっていたのかも。
そう思うのは、イの一番の収載歌の枕詞<八雲立つ-出雲>については、地文で説明されているからだ。
   大神初作須賀宮之時 自其地雲立騰 爾 作御歌

この分野では、加茂真淵:「冠辞考」(5分類)が判り易いと思うが、現代感覚では吉本隆明(「初期歌謡論」III枕詞論)による暗喩・音便喩・虚喩分類が頭の整理に向いている。枕詞の存在が共感を呼ぶとの指摘は至極もっともな見方でもあるし。
忘れ去られたのは、コミュニティの"共有"していた観念が転換したため、その意義を記憶する気が失せたことになろう。

もちろん、この辺りは、素人感覚でしかない。
一方、玄人となると、江戸期から、その数は半端なものではなかろうから、様々な見方があるだろうが、どの道、<喩>の範疇での再編や、音遊びとか調音等で雰囲気を醸し出しているのでは。
他に思い付かないから、そうするしかないが、「萬葉集」ならそれでよかろうが、「古事記」も同じ扱いをしてよいものかはなんとも言い難し。

「古事記」での<喩>は次元が異なる可能性を感じさせるからだ。

"葦牙は屮で青人草は艸"📖と書けば、その感覚が伝わるだろうか。言うまでもないが、葦や青草に生命の初元を感じ取り、それを部族発祥譚の核にするような例倭以外には無いからだ。間違ってはこまるが、ヒトは青草の如しと記載しているのではない。ヒト呼ばれる草であると規定している。現代人にとってこの概念は理解しがたいものがあろう。・・・つまり、枕詞は一種の比喩に見えるが、古代人にとっては、それは実体なのかも知れぬ。

そんなことより、感性で枕詞を味わうことの方が重要なのでは。
日本人は色彩感覚が研ぎ澄まされているようだが、古代に色彩という抽象概念が無く、色表現用語が存在しなかったことからすれば、"射干玉の-夜"や"栲綱の-白"は自然な表現に思えるし、"沫雪の-若やる胸"も美しい言葉であり、そこになんらの不可思議性は無いのでは。"畳薦-平群"とか"遠遠し-高志"にしたところで、イメージを打ち出しているに過ぎず、"港-神戸"とか"首都-東京"と呼ぶのと本質的にはなんの違いもないように思える。("摩天楼N.Y."と"青丹吉 奈良之宮処"の様なもの。)一種の"クリッシェ"として通用しているだけ。飽きられたり、イメージにずれが生じれば死語の運命にある訳で。
---INDEX---(ご注意)歌番号はテキストに従っておりません。
   《上巻》国生み
[前駆]【伊邪那美命&伊邪那岐命】綾に吉愛男を📖
   《上巻》@出雲・八尋和邇…7+2首(#1〜9) 📖
<@出雲>…7首
[__1]【速須佐之男命】作御歌八雲立つ出雲八重垣📖
  八雲立つ-出雲
[__2]【八千矛神(大国主命)】八千矛の神の命は八洲国📖
  遠遠し-高志  狭野つ鳥-雉  庭つ鳥-鶏
[__3]【沼河日売】八千矛の神の命は萎草の📖
  萎草の-女
[__4]【沼河日売】青山に日が隠らば📖
  射干玉の-夜  朝日の-笑み  栲綱の-白き  沫雪の-若やる胸
[__5]【大国主命】射干玉の黒き御衣を📖
  射干玉の-黒  沖つ鳥-胸見る  辺つ波-磯に  鴗鳥の-青き  群鳥の-吾が群  引け鳥の-吾が引け  朝雨-野霧に  若草の-妻
[__6]【須勢理毘賣命】~語八千矛の…吾はもよ女にしあれば📖
  若草の-妻  沫雪の-若やる胸  栲綱の-白き
[__7]【伊呂妹 高比賣】夷振天なるや弟織機の📖
<火遠理命/天津日高日子穂々手見命/山佐知毘古/虚空津日高>
      +<豊玉毘売命[八尋和邇]>…2首

[__8]【豊玉比売】獻歌 via 弟 玉依毘賣赤瓊は緒さへ光れど📖
  白瓊の-君
[__9]【比古遲(火遠理命)】答歌沖津鳥鴨著く島に📖
  沖つ鳥-鴨
   《中巻初代天皇段》…13首(#10〜22) 📖
<東遷敗色脱却となる戦勝後の酒宴>…1首
[_10]①天皇⇒【自軍兵】@東遷宇陀の高城に鷸羂張る📖
  いすくはし-鯨  立ち柧棱の-実の無けく  柃-実の多けく
<東遷続々勝利を誇る久米族>…5首
[_11]①天皇⇒【久米人】みつみつし久米の子等が頭椎い📖
  みつみつし-久米
[_12]①天皇⇒【久米人】みつみつし久米の子等が粟生には📖
  みつみつし-久米
[_13]①天皇⇒【久米人】みつみつし久米の子等が垣下に📖
  みつみつし-久米
[_14]①天皇⇒【久米人】神風の伊勢の海の📖
  神風の-伊勢
[_15]①天皇⇒【久米人】盾並めて伊那佐の山の📖
  盾並めて-伊那佐  嶋つ鳥-鵜
<即位後の皇后探し>…5首
[_16]【大久米命】大和の高佐士野を📖
[_17]【①天皇】姉をし枕かむ📖
[_18]【伊須氣余理比賣】何故黥ける利目📖
[_19]【大久米命】吾が黥ける利目📖
[_20]【①天皇】葦原の穢しき小屋に📖
<崩御後 皇后が皇子の危機を救う>…2首
[_21]【伊須氣余理比賣】狭井川よ雲立ち渡り📖
[_22]【伊須氣余理比賣】畝傍山昼は雲と居📖
   ②〜⑨天皇…歌無収載
   《中巻10代天皇段》…1首(#23) 📖
[_23]【少女】御真木入日子はや📖
   ⑪天皇…歌無収載
   《中巻倭建命関連》…15首(#24〜38) 📖
<出雲健騙し討ち成功で得意三昧>…1首
[_24]【倭建命】やつめさす出雲建が📖
  やつめさす-出雲建
<妻の身を捧げる愛>…3首
[_25]【(后)弟橘比賣命】さねさし相武の小沼に📖
  さねさし-相武
[_26]【倭建命】新治筑波を過ぎて📖
  新治-筑波
[_27]【御火燒之老人】日々並べて夜には九夜📖
<東征完了後帰還し かねての約束通り初夜>…2首
[_28]【倭建命】久方の天香久山📖
  久方の-天
[_29]【美夜受比賣】高光る日の皇子八隅知し📖
  高光る-日の皇子  八隅知し-我大王  新瑞の-年  新瑞の-時
[番外]【倭建命】三歎詔吾妻はや📖
<辞世的に、最後の気力で心持発露>…5首
[_30]【倭建命】尾張に直に向かへる📖
[_31]【倭建命】倭は国のまほろば📖
  たたなづく-青垣
[_32]【倭建命】命の全けむ人は📖
  畳薦-平群
[_33]【倭建命】はしけやし我家の方よ📖
[_34]【倭建命】少女の床の辺に📖
<葬儀で遺族は深い悲しみに陥る>…4首[大御葬儀歌]
[_35]【倭建命后御子等】<大御葬儀歌>水漬きの田の稲柄に📖
[_36]【倭建命后御子等】<大御葬儀歌>浅小竹原腰難む📖
[_37]【倭建命后御子等】<大御葬儀歌>海処行けば腰難む📖
[_38]【倭建命后御子等】<大御葬儀歌>浜つ千鳥浜由は行かず📖
   《中巻15代天皇段》…14首(#39〜52) 📖
<反逆すれど敗退した忍熊王 琵琶湖で最期…1首
[_39]【忍熊王】いざ吾君振熊が📖
  鳰鳥の-淡海
<天皇凱旋で母・臣が寿ぐ>…2首
[_40]【御祖 息長帶日賣命】此の御酒は吾が御酒ならず📖
  石立たす-少名御神
[_41]【建内宿禰】酒楽之歌この神酒を醸みけむ人は📖
<国見寿ぎ>1首
[_42]【⑮天皇】千葉の葛野を見れば📖
  千葉の-葛野
<妃獲得の喜びを宴席で表明>…1首
[_43]【⑮天皇】この蟹やいづくの蟹📖
  百伝ふ-角鹿  階だゆふ-佐佐那美道  三栗の-中つ土
<皇子に呼び寄せた女を譲り渡す>…4首
[_44]【⑮天皇】いざ子ども野蒜摘みに📖
  香はし-花橘  三栗の-中枝
[_45]【⑮天皇】水溜る依網の池の📖
  水溜る-依網の池
[_46]【(太子)大雀命】道の後こはだ乙女を雷の如📖
  道の後-こはだ
[_47]【(太子)大雀命】道の後こはだ乙女は争はず📖
  道の後-こはだ
<吉野勢力が皇子褒め>…2首
[_48]【吉野之國主等】品陀の日の御子大雀📖
  冬木の-素幹
[_49]【吉野之國主等】檮の生に横臼を作り📖
<渡来製造法の酒に酔う>…1首
[_50]【⑮天皇】すすこりが醸みし御酒に📖
<崩御後の皇位争奪闘争>…2首
[_51]【大山守命】千早振る宇遅の済に棹取りに📖
  千早振る-宇遅
[_52]【宇遅能和紀郎子】千早人宇遅の済に渡り瀬に📖
  千早人-宇遅
      《下巻16代天皇段》…23首(#53〜75)📖
<皇后の嫉妬におびえて帰郷した妃を追いかけた>…5首
[_53]【⑯天皇】沖辺には小舟連ららく📖
  黒鞘の-まさつこ
[_54]【⑯天皇】押し照るや難波の前由📖
  押し照るや-難波
[_55]【⑯天皇】山県に蒔ける青菜も📖
[_56]【黒比売】倭辺に西風吹き上げて📖
[_57]【黒比売】倭辺に行くは誰が夫📖
  隠り処の-下
<皇后不在中の宮での浮気が発覚>…5首
[_58]【大后】志都歌之歌返つぎねふや山代川を川上り📖
  つぎねふや-山代川
[_59]【大后】志都歌之歌返つぎねふや山代川を宮上り📖
  つぎねふや-山代川  青丹吉-那良  小楯-倭
[_60]【⑯天皇】志都歌之歌返山代にい及け鳥山📖
[_61]【⑯天皇】志都歌之歌返三諸のその高城なる📖
  肝向かふ-心
[_62]【⑯天皇】志都歌之歌返つぎねふ山代女の木鍬持ち…根白📖
  根白の-白腕
<激怒し家出した皇后に平謝する一方、愛人とも睦み合う>…4首
  つぎねふ-山代女
[_63]【口日売】山代の筒木の宮に📖
[_64]【⑯天皇】志都歌之歌返つぎねふ山代女の木鍬持ち…さわさわに📖
  つぎねふ-山代女
[_65]【⑯天皇】八田の一本菅は子持たず📖
[_66]【八田若郎女】八田の一本菅は独り居りとも📖
<天皇拒否の女が、男と一緒に反逆>…5首
[_67]【⑯天皇】女鳥の吾が大王の📖
[_68]【女鳥王】返歌高往くや隼別の📖
  高往くや-隼別
[_69]【女鳥王】雲雀は天に駆ける📖
  高往くや-隼別
[_70]【速總別王】梯立の倉椅山を…磐懸きかねて📖
  梯立の-倉椅山
[_71]【速總別王】梯立の倉椅山は…妹と登れば📖
<本邦で雁孵化との吉兆>…3首
  梯立の-倉椅山
[_72]【⑯天皇】たまきはる内の朝臣📖
  魂極る-内  そらみつ-倭
[_73]【建内宿禰】高光る日の御子諾こそ📖
  高光る-日の御子  そらみつ-倭
[_74]【建内宿禰】祝歌片歌汝が御子や遂に知らむと📖
<超大木製の船を造り、その廃船材で琴を作成>…1首
[_75]【建内宿禰】祝歌片歌枯野を塩に焼き📖
   《下巻17代天皇》…3首(#76〜78) 📖
<弟の、暗殺を狙った焼き討ちを喰らったが辛くも逃走>…3首
[_76]【⑰天皇】丹比野に寝むと知りせば📖
[_77]【⑰天皇】埴生坂吾が立ち見れば📖
  陽炎の-燃ゆる
[_78]【⑰天皇】大坂に遇ふや乙女を📖
   《下巻軽王・軽大郎女》…12首(#79〜90) 📖
<禁断の情事悲恋物語>…12首
[_79]【木梨之輕太子】志良宜歌あしひきの山田を作り📖
  あしひきの-山
[_80]【木梨之輕太子】夷振之上歌笹葉に打つや霰の📖
  刈り薦の-乱れ
[_81]【穴穂命】大前小前宿祢が金門陰📖
[_82]【大前小前宿禰】宮人振宮人の足結の小鈴📖
[_83]【木梨之輕太子】天田振天だむ軽の乙女甚泣かば📖
  天だむ-軽
[_84]【木梨之輕太子】天田振天だむ軽乙女したたにも📖
  天だむ-軽
[_85]【木梨之輕太子】天田振天飛ぶ鳥も使人そ📖
  天飛ぶ-鳥
[_86]【木梨之輕太子】夷振之片下大王を島に葬らば📖
  船余り-い帰り
[_87]【軽大郎女】夏草のあひねの浜の📖
  夏草の-あひね
[_88]【軽大郎女】君が行き日長くなりぬ📖
  山たづの-迎へ
[_89]【木梨之輕太子】隠口の泊瀬山の大峰には📖
  隠口の-泊瀬  槻弓の-臥る  梓弓-猛り
[_90]【木梨之輕太子】隠口の泊瀬川の上つ瀬に📖
  隠口の-泊瀬
   《下巻21代天皇段》…14首(#91〜104) 📖
<睦み合いたと直接的に心情吐露>…1首
[_91]【㉑天皇】日下辺の此方の山と📖
  畳薦-平群
<睦み合う約束忘却の彼方 そこに老婆突然訪問>…4首+2首(全く別)
[_92]【㉑天皇】志都歌三諸の厳橿が本📖
[_93]【㉑天皇】志都歌引田の若栗栖原📖
[_94]【赤猪子】志都歌見諸に築くや玉垣📖
[_95]【赤猪子】志都歌日下江の入り江の蓮📖
  (吉野童女)
[_96]【㉑天皇】胡坐居の神の御手もち📖
  (秋津洲)
[_97]【㉑天皇】三吉野の小室岳に📖
  八隅知し-我が大王  白妙の-袖  そらみつ-倭
<木に登って一言主からの難を脱した>…1首
[_98]【㉑天皇】八隅知し我が大王の遊ばしし📖
  八隅知し-我が大王
<@新嘗祭酒宴粗相し斬殺寸前の采女、皇后、妃による寿ぎ>…3首+3首(別)
  (臣の少女)
[_99]【㉑天皇】少女のい隠るを📖
  (新嘗)
[100]【三重の采女】纏向の日代の宮は📖
  八百によし-斎の宮  真木さく-日の御門  百足る-槻  あり衣の-三重の子  高光る-日の御子
[101]【大后】倭の此の高市に📖
  高光る-日の皇子
[102]【㉑天皇】天語歌百礒城の大宮人は📖
  百礒城の-大宮人  鶉鳥-領巾  鶺鴒-尾  庭雀-髻華  高光る-日の宮人
  (臣の少女)
[103]【㉑天皇】浮歌水注く臣の少女📖
  水注く-臣の少女[104]【袁杼比売】志都歌八隅知し我が大王の朝処には📖
  八隅知し-我が大王
   《下巻23代天皇関連》…9首(#105〜113) 📖
<播磨の隠遁地で身分を明かした>…1首
[105]【即位前㉓天皇】詠(非歌表記)立つる赤幡見れ者📖
<即位前の歌垣で家臣と大喧嘩>…6首
[106]【志毘臣】@歌垣経緯大宮の遠つ端手📖
[107]【即位前㉓天皇】@歌垣経緯大匠拙みこそ📖
[108]【志毘臣】@歌垣経緯大王の心を宥み📖
[109]【即位前㉓天皇】@歌垣経緯潮瀬の波折りを見れば📖
[110]【志毘臣】@歌垣経緯大王の御子の柴垣📖
[111]【即位前㉓天皇】@歌垣経緯大魚吉鮪突く海士よ📖
  大魚吉-鮪
<殺された父の遺骨埋葬地を覚えていた老婆に感謝>…2首
[112]【㉓天皇】浅茅原小谷を過ぎて📖
  百伝ふ-鐸
[113]【㉓天皇】置目もや淡海の置目📖

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